悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない
 あいかわらずのシンと静かな目で、ぼやくように言う。

「ずいぶんと急な話だな」

(私はずっと考えていたわ。それをあなたに話す機会がなかっただけで)

 そうツッコミを入れたくなったけれど、音信不通状態だった原因は彼だけにあるわけじゃない。どうせ拒絶されるからと、コミュニケーションを諦めた志桜にも責任の一端はあるだろう。

「すみません。ですが、ご検討をいただけると」

 互いに、婚約破棄をまるでビジネスのように扱っている。それが自分たちの関係性を如実に表していて皮肉だなと思う。
 しばしの沈黙のあとで、楓が口を開く。

「君の要求は理解した。両家の未来にも影響のある話だし即答はできない。少し、時間をくれないか?」
「かしこまりました」

 そう答えて、志桜は席を立つ。自分の話はこれですべてだからだ。

(少なくとも、ビジネスのほうは色よい返事がもらえてよかったわ)

 婚約破棄もしたいが、ビジネスの話だってもちろん大事だと考えている。Kマシェリの販促にAIを取り入れる企画は、志桜が長く温めてきたもので熱意も自信も十分だった。
 部屋の扉の前まで見送ってくれた彼に、軽く頭をさげて別れを告げる。

「お忙しいなか、お時間をつくってくださってありがとうございました」
「いや。また連絡する」
「えぇ」
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