悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない
 素直にそう思った。怖い、気難しそう、人にそんな第一印象を抱かれがちな志桜にとって彼のような人間は憧れの的だ。

「では、さっそく会議室に」

 雄大を案内しようとしたが、彼は「すみません、もう少し」と言いながらチラリと後ろを振り返る。

(ほかにも誰か来るのかしら?)

 彼につられて、志桜もエントランスの自動ドアに視線を向ける。ちょうどそのとき、長身の男性が足早になかに入ってきた。

(――え?)

「鷹井さん!」

 自分の存在をアピールするように雄大が片手をあげた。

(ど、どうして? 来るなんて聞いていないけど)

 だが、雄大の隣に並んだのは間違いなく彼だった。

「遅れてすまない」

 KAMUROからは志桜と蘭、鷹井AIラボからは雄大と……楓。四人で会議室のデスクを囲む形となった。名刺交換をして席についたあと、おもに会話を進めるのは志桜と雄大だ。
 蘭は新人が出しゃばるべきではないとでも思っているのか、妙に静かだ。

「社長自らに足を運んでいただけるなんて光栄です」

 社交下手な志桜も、ビジネスの場での建前くらいは心得ている。こうして水を向ければ、楓本人が来た理由を聞き出せるかと思ったのだ。狙いどおりに雄大が答えてくれる。
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