悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない
 とくにツッコミもせず気をきかせたその様子から察するに、雄大はふたりの関係を認識しているのだろう。蘭はやや戸惑っているようだったが、雄大にならって「先にデスクに戻ってますね」と志桜に言った。

 ふたりが出ていって、やけに静かになった会議室で志桜は彼と向き合う。
 志桜は女性としては決して小さくないのだが、それでも彼のほうが頭ひとつぶんほど長身なので自然と見あげる形になる。

「あの、なんでしょう?」
「例の件の返事を、と思ってね」

 志桜の心臓がドクンと大きく跳ねた。彼本人も言っていたとおり、両家の意向もあるから答えをもらえるまでにもう少しかかるかと思っていたのだ。
 ちなみに志桜のほうは、彼の返事を聞いてから英輔夫妻や愛奈に報告しようと考えている。神室との姻戚関係を欲しがった鷹井家と違って、こちら側は婚約破棄で失うものがとくにないからだ。鷹井家の承認は得たと言えば、英輔は反対しないだろうと踏んでいる。

「検討してくださったんですね」
「あぁ。結論から言おう」

 志桜はゴクリと喉を鳴らし、彼の言葉を待つ。

(大丈夫。楓さんにもメリットしかないもの。絶対に受け入れてもらえるはず)

「現時点での答えはNOだ」
「――えぇ?」

 期待を裏切られ、思わず大きな声を出してしまった。
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