悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない
「……君もそんな顔をするんだな」

 自分はよほど間の抜けた表情をしているのだろうか。楓はまじまじと志桜を見つめ、そんなふうにこぼした。志桜はグッと表情を引き締め直して、考える。

「やっぱり、この企画でもたらされる利益程度では足りませんか?」

 ここを突かれると正直、痛い。Kマシェリ立ちあげの際に鷹井家が結構な額を出資してくれたのは知っているから。

「そうではない。白状すれば……婚約破棄という選択肢は俺も考えてはいた」
「では、なぜ?」

 問い詰めるように、志桜は彼に迫った。考えたうえで拒否される理由など思い当たらないからだ。

「さぁ。気が変わったとしか説明のしようがない」

 感情の読み取れない冷めた瞳で、彼はあっさりと言い放つ。

(気分なんてそんな説明じゃとても納得できない。それとも、なにか裏があるの?)

 彼の真意をはかりかねて、志桜は困ったように眉尻をさげる。

「不満そうだな」

 形のいい薄い唇をかすかにゆがめ、楓は大きく足を踏み出し、志桜との距離を縮めた。整いすぎた美しい顔ですごまれ、志桜は身じろぎもできずに彼を見つめ返す。

「だが、主張に正当性があるのは俺のほうじゃないか? 婚約は立派な契約なのだから俺には拒む権利があるはずだ」
「うっ……おっしゃるとおりではありますが」
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