悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない
 その前に軽くランチでもとろう。彼はそう言って、志桜を助手席に案内してくれた。車を走らせること数十分。楓の愛車は六本木の高級ホテルの地下駐車場へと入っていく。

「よく行くフレンチがこのホテルの三十二階にあって。そこでいいか?」
「はい、お任せします」

 旧家の娘といっても現在の神室家はそう豊かなわけでもないので、普段の志桜のライフスタイルからすると贅沢すぎる店だが、今日は彼のエスコートに従っておくのが無難だろうと判断した。
 鷹井家御曹司がご贔屓にする店なだけあって、出てくる料理はどれも絶品だった。

(これからドレスを着なきゃならないのに、食べすぎてしまった)

 志桜は店を出ると、ごちそうしてくれた彼に礼を言う。

「ごちそうさまでした。メインのブフブルギニョン、とてもおいしかったです」

 牛すね肉の赤ワイン煮込み。フレンチ定番の一品だが、丁寧に作られていてお肉も柔らかく最高だった。

「そうか。俺はグルメではないからフレンチはここしか知らないが……君が気に入ったのならよかった」

 謙遜……かと思ったが、意外とそうでもないのかもしれない。
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