悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない
『それに向こうは〝仕事は時間内に片づけるべき〟という文化だから。俺も日本にいるときより、君の話をゆっくり聞く時間をつくれると思う』

 普段からサンノゼと東京を往復している彼からすると、名古屋や大阪で落ち合おう程度の感覚なのだろう。だが、こちらはそう気軽には応じられない。

「興味はありますが、急なアメリカ出張を会社に認めてもらえるかどうか……」

 上司の許可が出たとしても、同僚たちの目が怖い。旅行気分の贅沢出張だと、ささやかれてしまいそうだ。

(それに楓さんと一緒にアメリカだなんて……いや、今はビジネスの話をしているんだから、こんなこと考えるのは公私混同かしら)

『では、俺からKAMUROの萩田社長に話をしてみよう。出張扱いが難しければ、君に一週間程度の休暇を与えるよう頼んでみる。サンノゼには俺の家があるから滞在費はかからないし、往復航空券は婚約者へのプレゼントということで』

 これならKAMUROにも志桜にも負担はない。楓は『最善策だな』と結論づけて、電話を切った。引き止めて「結構です」と言わなかったのは、志桜自身にも欲が出たからだ。
 AI活用が世界で一番進んでいる都市をこの目で見る。それはあまりにも魅力的すぎる誘いだった。
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