悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない
 社長である英輔は楓の提案をふたつ返事で承諾してくれた。

「若年層向けのKマシェリはうちの基幹ブランドに育てたいし、そのため投資は惜しまないよ」

 志桜にもそんなふうに言ってくれた。もちろん嘘ではないだろうが……これまで散々世話になった鷹井家の御曹司にNOは言えないという切実な事情もあったと思う。
 英輔は「出張扱いにする」と言ってくれたが、志桜は楓が提案したプライベートとして行くほうを選ばせてもらった。ほかの社員に白い目で見られたくなかったからだ。それに志桜は有給をかなり余らせていて、上司から消化を急かされていたという理由もある。

 そうして二週間後。
 志桜はカリフォルニア州のサンフランシスコ国際空港におり立っていた。ガラス張りの壁面から西海岸らしい明るい陽光が燦々と注ぎ、まぶしさに思わず目をすがめる。

(初めての西海岸……本当に来てしまった)

 志桜は大きく息を吸って、吐いた。

 多様な人種の人々が行き交い、日本語はほぼ聞こえてこない。匂いも東京とは違う気がする。五感すべてで、ここが異国の地なのだと実感する。

「こっちだ!」
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