破滅エンドしかないモブの娘に転生してしまったけど、父があまりにも優男だったので案外悪くはない。
泣きながら私は母に手を伸ばす。
すると夢であったはずのそれは、温かな実感を伴い、意識が浮上する。
薄っすらと重たい瞼を開ければ、そのルビーのような瞳を涙でいっぱいにさせた父が心配そうに私の顔をのぞき込んでいた。
「……あれ……父さんじゃ……ない。……パパ?」
「アイリーン! アイリーン、良かった。気が付いたんだね! ああ、良かった。神様が守って下さったんだね」
父、いや、パパは顔をぐしゃぐしゃにさせながら、ボロボロと泣いていた。
見ればパパはしっかりと私の手を掴んでいる。
温かな感触はこれだったんだ。
パパが助けてくれた。
「パパ、ずぶ濡れね」
「パパはいいんだよ。アイリーンが無事なら、もうそれだけでいいんだ」
大げさだと思えるほど、パパはただ泣いている。
だけどそのおかげか、胸まで温かく感じる。
ああ、そっか。
今は、幸せなんだ私。
「……ん?」
「どうしたんだい、アイリーン」
「え、あ、や、ううん」
更に心配そうな顔のパパに私は首を横に振った。
見覚えのあるこの部屋は、まぎれもなく私の部屋だ。
昔は天蓋付きだったベッドは、借金のせいで簡素な木のベッドになった。
部屋にはこれと小さな机、あとは母が使っていた形見の姿鏡だけ。
貴族としてはありえないくらい、何もない部屋。
だけど問題はそこではない。
一旦落ち着こう。
訳が分からないもの。
「旦那様、お嬢様が気が付かれたのならば先にお着替え下さい。ただでさえあなたは体が弱いのですから、また熱でも出されたら大変です」
そう言いながら、一人の男性が私の部屋に入室してくる。
私はその顔をジッと見た。
ちゃんと覚えている。
彼はパパの秘書で、名前はオーウェン。
白銀の髪を後ろで縛り、黒くやや特徴的な瞳、そして何よりその頬には細かいうろこの斑紋がある。
オーウェンはこの国では珍しい、へびの獣人だ。
パパが若い頃に彼を助けて以来、ずっと一緒にいると教えられた。
「お嬢様、今度こそ大人しく部屋にいて下さいね」
「あ、うん」
「まってくれオーウェン。ぼくはまだアイリーンのそばにいないと心配で……」
パパの言葉が終わらぬうちに、オーウェンは父をその肩に担ぎあげた。
ワーワーと叫びながら私に手を伸ばし駄々をこねるパパに、私はただ手を振った。
「……うん……」
静かになった室内で、私はベッドから這い出る。
そして姿鏡で自分を見た。
私はアイリーン・マクルド。この男爵家の一人娘にして六歳。
そういう記憶はある。
だけど、そうじゃない。
「もしかしなくても、これ、転生しちゃったみたいな?」
姿鏡に写る自分に手を伸ばす。
「うぇぇ、嘘でしょう」
小さな子供の体でしかないそれに、私は思わず一人叫ばないわけにはいかなかった。
すると夢であったはずのそれは、温かな実感を伴い、意識が浮上する。
薄っすらと重たい瞼を開ければ、そのルビーのような瞳を涙でいっぱいにさせた父が心配そうに私の顔をのぞき込んでいた。
「……あれ……父さんじゃ……ない。……パパ?」
「アイリーン! アイリーン、良かった。気が付いたんだね! ああ、良かった。神様が守って下さったんだね」
父、いや、パパは顔をぐしゃぐしゃにさせながら、ボロボロと泣いていた。
見ればパパはしっかりと私の手を掴んでいる。
温かな感触はこれだったんだ。
パパが助けてくれた。
「パパ、ずぶ濡れね」
「パパはいいんだよ。アイリーンが無事なら、もうそれだけでいいんだ」
大げさだと思えるほど、パパはただ泣いている。
だけどそのおかげか、胸まで温かく感じる。
ああ、そっか。
今は、幸せなんだ私。
「……ん?」
「どうしたんだい、アイリーン」
「え、あ、や、ううん」
更に心配そうな顔のパパに私は首を横に振った。
見覚えのあるこの部屋は、まぎれもなく私の部屋だ。
昔は天蓋付きだったベッドは、借金のせいで簡素な木のベッドになった。
部屋にはこれと小さな机、あとは母が使っていた形見の姿鏡だけ。
貴族としてはありえないくらい、何もない部屋。
だけど問題はそこではない。
一旦落ち着こう。
訳が分からないもの。
「旦那様、お嬢様が気が付かれたのならば先にお着替え下さい。ただでさえあなたは体が弱いのですから、また熱でも出されたら大変です」
そう言いながら、一人の男性が私の部屋に入室してくる。
私はその顔をジッと見た。
ちゃんと覚えている。
彼はパパの秘書で、名前はオーウェン。
白銀の髪を後ろで縛り、黒くやや特徴的な瞳、そして何よりその頬には細かいうろこの斑紋がある。
オーウェンはこの国では珍しい、へびの獣人だ。
パパが若い頃に彼を助けて以来、ずっと一緒にいると教えられた。
「お嬢様、今度こそ大人しく部屋にいて下さいね」
「あ、うん」
「まってくれオーウェン。ぼくはまだアイリーンのそばにいないと心配で……」
パパの言葉が終わらぬうちに、オーウェンは父をその肩に担ぎあげた。
ワーワーと叫びながら私に手を伸ばし駄々をこねるパパに、私はただ手を振った。
「……うん……」
静かになった室内で、私はベッドから這い出る。
そして姿鏡で自分を見た。
私はアイリーン・マクルド。この男爵家の一人娘にして六歳。
そういう記憶はある。
だけど、そうじゃない。
「もしかしなくても、これ、転生しちゃったみたいな?」
姿鏡に写る自分に手を伸ばす。
「うぇぇ、嘘でしょう」
小さな子供の体でしかないそれに、私は思わず一人叫ばないわけにはいかなかった。