雨の闖入者 The Best BondS-2
「そーよね。あんたは表社会寄りの人生だもんね。じゃあ、闇屋って言葉、聞いたことは?」


闇屋――その名の響き通り、あまり大声で言えるような職種ではない。


「ああ、金次第でなんでもするっつー、おっかない集団って聞いたことあるぜ」


その答えに横槍が入る。ジストだ。


「それは誤解だよ? 闇屋は個人であって、集団組織じゃないし、それにジストさんはイイ女の依頼しか受けないもん。お金次第なんて、そんな節操なしと一緒にしないでよ」

「いや、誰もアンタの話なんか……ん? ……んんっ?」


何かに感づいたらしいゼルに、行儀悪くもグラスに注がれた赤ワインに人差し指を突っ込んでいたエナは、それを舐め取りながらゼルを見遣った。


「わかった?」

「え、っつーことはアレか? ……マジかよ?? ……ジストの仕事って闇屋なんか?!」

「ご名答」

ジストの弾んだ声にエナも頷く。

「そしてね、L.Hっていうのは、裏社会で知らない人間なんて居ないくらいの闇屋の呼称なの。L.Hを殺したい人間なんてわんさか居るんだから、あんまり口にしないことね」

あんたもついでに消されるから、とエナが告げるとゼルは口をあんぐりと開けてジストを見た。

こんな男が? とでも思っているのだろう。

エナだって最初はそう思ったものだ。


「これでもまだ、わかんない?」


食べ物にありつけなかった自分達に、イェン邸のことを話し、此処に来るように示唆したのはジスト。

乗り気ではなかったことに加え、ジストが訪れた時のイェンの顔を思い起こすと。


「……あーっ!」


ようやく答えに辿りついたらしいゼルが声をあげると、床で丸まっていたラファエルがその声にびくりと震えて頭を擡げた。


< 16 / 156 >

この作品をシェア

pagetop