雨の闖入者 The Best BondS-2
エナの向かいで、ジストは俯き加減のまま、ほんの一瞬、少しだけ目を見開いた。


「ジスト? どうかした?」


その様子を不思議に思ったエナが声を掛ける。


「……いや。たいしたことじゃない」

「何? 気付いたことがあんなら、ちゃんと言って」


どんな些細な情報でも発案でも今は大事だ。

それこそ今は雲を掴むような話をしているのだから。


「その時はちゃんと言うから安心してよ」


束の間の笑顔の後、真剣な面持ちで煙草を吸うジストにしばらく訝しげな眼差しを向けていたエナだが、今の段階でこれ以上問い詰めても無駄だと思ったのか、言い募ることはしなかった。


「なあ、雨を人為的に降らせるコトって可能なんか?」


二人の目がゼルに集まる。

答えたのはジストだった。


「理論的には可能だな。雨雲を作っちまえばいい。大量の水蒸気を作り出せば、水を含んだ雲が飽和状態になって零れ落ちる」

「……つまり、どういうこった?」


全く理解出来ていないといった表情にジストは嘆息し、あたりを見回した。


「そうだな……例えば、コレだ」


ジストは傍らに置かれた珈琲を指差す。


「コレを雲として、砂糖を水蒸気とする。砂糖を入れていくとするだろう? 勿論砂糖は溶ける」


そう言いながらジストは珈琲砂糖を匙で一杯掬い、珈琲の中に入れた。


「だが、少量なら溶ける砂糖も、このように……」


ジストは更に十杯ほど砂糖を珈琲カップに呑ませた。

よく掻き交ぜた後、スプーンを取り出す。

適度に覚めている珈琲は砂糖を受け入れ切ることが出来ずに半透明になった砂糖がスプーンの上に残っていた。


「珈琲が砂糖を溶かすことができる限界量を飽和という。それを越えたとき、砂糖はこうやって残るだろう? この残った砂糖が、雨となる。簡単に言えば、だが」


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