雨の闖入者 The Best BondS-2
「船よ。船、ちょうだい。もう二度とこんな面倒事に巻き込まれなくていいように移動手段、持っとかないとね。ああ、あと乗組員も貸してね。それから勿論食料も一杯積んで」
ここぞとばかりになんだかんだと注文をつけるエナに、イェンは瞠目し、狼狽した。
船を出してもらうどころか、くれと言い出したことに驚いたのはジストも同様ではあるが。
「……そんな……船だなんて……」
「嫌なら他、あたれば? 遠回りになるけど、船が出てる町はあるんだもん。あたしはどっちでもいいのよ」
強気なエナの発言は、条件をのまなければ本当に依頼を放棄してしまいそうな勢いを持っていて。
イェンは慌てて首を横に振った。
「いや、そんな……それは……それは困ります!」
エナはその反応に麗しい笑顔を見せた。
「なら、条件飲むよね?」
ある意味、脅迫である。
「……致し方ないですね……。命には代えられない」
「そうこなくっちゃ」
渋々答えたイェンとは対照的な弾んだ声でエナがガッツポーズを披露した。
「さあ、そうと決まれば、誰だか知んないけどちゃっちゃと片付けてやるわ」
立ち上がったエナは、「あ」と声を上げた。
全員が「?」と顔に書いてエナを見る。
「あった。『り』で始まる言葉」
まだ考えていたのかよ、と苦笑するジストとゼルにエナは不敵な笑みを浮かべて、指の関節をぽきぽきと鳴らした。
「……『リンチ』?」
エナにつられるように、ゼルもジストも不遜な笑みを口元に刷いた。
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