雨の闖入者 The Best BondS-2
「あ。もうすぐ晩御飯の時間だ」


ラフを振り返ったエナが暖炉の上に置かれた時計の短い針が「七」に近付いていることに気付き、立ち上がった。


「先にお風呂、入ってくる」


先程家主自らが湯殿の用意が出来たと言いに来た。

他の使用人の気配が皆無に近いことから、きっとイェン自らが湯殿を用意したのだろう。

探索から帰ってきてすぐにこの部屋で地図を広げた彼らの体もまたラファエル同様に温もりを求めていた。


「あ。エナちゃん。ジストさん背中流……」

「慎んで力一杯遠慮さしあげるわ」


片膝を立てて立ち上がろうとしていたジストに最後まで言わせず、エナは笑顔で強く言い切った。


「ラフも入る?」


エナの問いかけにラファエルは一度エナの顔を見やり、再び目を閉じた。

ラファエルはどうやら風呂が嫌いらしく、今まで何度も一緒に入って洗ってやろうとしているのに頑なに拒み続けている。

だというのに、毛並みは汚れることもなく、脂ぎることもないから不思議なことこの上ない。


いつも太陽の匂いがする毛並みを触りながら、もしかしたら皆が寝静まった後にでもこっそり風呂に入っているのではないかとエナは何度となく思ったものだ。

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