雨の闖入者 The Best BondS-2
それから数分、部屋には暖炉の薪が燃える音だけが横たわっていた。


「……なあ、ジスト」


男二人――と一匹――になった部屋で尚も地図を見ていたゼルが顔も上げずに声を掛けた。


「……なんだ」


いかにも面倒くさそうな声音の主に、相変わらずエナが居ないと人格が変わるなと前置きを置いた上でゼルは、思っていた可能性を口にした。


「この一件よお。もしかして、船を出させないのが目的じゃねェ?」


ジストの眉に皺が寄る。

だが、ジストを見ていないゼルはそのことには気付かない。


「……何故、そう思う」


茶目っ気を取り払ったジストの声は威圧を感じさせるが、エナが居ない時にジストがこうなることを知っているゼルは特にその声に疑問を抱くことなく答えを返す。


「わかんねェけど……。アンタ、言ったろ。この町を標的にする理由ってヤツ。此処はこの大陸屈指の港町だからよ。それぐらいしか思いつかねェんだよな」

「……ああ。そうかもな。だが、誰が、何の為に?」


地図を見るゼルの表情と言葉を無意識の内に寸分漏らさずに分析しようと凝視していた。


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