吸血少女はハニーブラッドをご所望です(コミカライズ原作です)
 「ああ、そうだよ。美郷が家を出てから五年が過ぎた頃。その年に引越しも考えていたんだけどね、どうにも美郷のことが気に掛かって出るに出られなかった。
 美郷は戻って来たよ。また何の前触れもなしにひょっこりとアタシの前に顔を見せた。勿論、内心では喜んだよ。
 生活に行き詰まりを感じたのかもしれない、アタシの存在が必要だと思い直してくれたのかもしれない、ってね。
 けれど、あの子が腕に抱いていた赤ん坊を見て、何か訳ありなのを察した。その子はまだ一歳にも満たない乳児で……。それがあんた、深緋だったんだよ」

 え、と。声を上げそうになった。ということは、母は祖母と離れている間に、父親となる男性と結ばれて、自分を産んだということになる。

 祖母は深くため息をもらし、言葉をついだ。

「美郷は、まだ赤ちゃんのあんたをアタシの元に連れて来て、この子を少しの間だけみていて欲しいと頼んだ。
 聞きたいことは山ほどあった。この子の父親が誰なのか。大事な一人娘を、音信不通だったアタシに預けてまで何処に行こうとしているのか。
 美郷は何かを堅く決意した瞳で、人間になるために行くところがある、って。そう言ったんだ」

 人間に……。
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