吸血少女はハニーブラッドをご所望です(コミカライズ原作です)

♯9.女性だけの村で、狙われるのは彼ひとり。


 依然、座り込んだままで白翔を見つめた。服装は朝見たときと変わらず、カジュアルな私服だけど、荷物は肩から斜めがけしたボディバッグのみで、物々しいバックパックやスポーツバッグは提げていない。

「どうして、白翔が? 合宿は?」

 顔を上げたままで訊くと、困った様子で眉を下げた彼と、目線の高さが同じになった。深緋の前にしゃがみ込み、白翔が「ごめん」と頭を下げた。

「嘘なんだ」
「……嘘? なにが?」
「合宿。本当は明日から」
「え」

 どういうことか、頭の中が整理できない。深緋は瞬きを繰り返すばかりで、何も言えなかった。

「そもそも深緋が俺に内緒で何処かに行こうとしてたのは知ってる」
「っ、なんで??」

 唇が震えた。無意識に感情が昂ぶるのを感じる。どうしてバレたのだろう、と不思議に思うしかない。

 谷へ行こうと最初に決意したあの早朝が、運の尽きだったのだろうか。ジョギング中の白翔に見つかり、そこで勘づかれたということ?

「とりあえずこれ、聞いてくれる?」

 そう言って白翔はポケットからスマホを取り出し、深緋にも見えるように画面をこちらに向けた。

 何だろうと思って見ていると、彼の指がボイスメモのアプリを立ち上げて再生ボタンの三角をタップした。

 ザザ、と雑音が鳴った後、なにかを啜る音とだれかの息づかいを感じた。
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