吸血少女はハニーブラッドをご所望です(コミカライズ原作です)

♯14.一縷の希望を求めて、再び女人谷の門戸を叩く。


 霊安室でむせび泣く祖母の背中はとても小さく見えた。冷えた床に膝を落としながら、静かに横たわる彼に縋り付いていた。何度もスグルくんの名前を呼びながら、祖母は嗚咽を漏らした。時おり(はな)を啜り、声が掠れて、息継ぎすら苦しそうだった。

 深緋はそばに付き添い、彼女の背中を手で撫でた。とめどなく溢れ出る涙で、丸い染みが幾つもできていく。

 そんな深緋と祖母の背後で白翔が洟を啜り、腕で顔を押さえていた。

 スグルくんに涙で別れを告げ、三人とも泣き腫らした目で霊安室を後にする。

 ひとしきり泣いて少し落ち着いたからか、祖母はスグルくんが遭遇した事故の経緯を話してくれた。事故現場から搬送した救急隊員の話によると、彼は突然飛び出した小さな男の子をかばい、トラックに撥ねられたそうだ。

 スグルくんは意識が途絶えるその瞬間まで、ずっと「リリーさん」の名前を呼んでいた。そしてしきりに「ごめん」と繰り返していた。

 それを聞いて、また目頭が熱くなった。スグルくんは自分がもう助からないと知り、祖母に謝っていた。一人にさせてごめん、と。

 祖母が病院に着いた頃には、既に手術中のランプが点灯していて、それも程なくして消えたと言う。祖母の悲しみは如何(いか)ばかりだっただろうと思うと、やり切れない気持ちになる。
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