吸血少女はハニーブラッドをご所望です(コミカライズ原作です)
 その目で、ジッと男を睨み付けると、たちまち彼の表情が畏怖のそれに変わった。ひっ、と短い悲鳴を上げて、彼の足が地面を擦る。

 一歩二歩と後ずさる男に合わせて、深緋は距離をつめた。緋い眼球から視線を逸らせずに、男には動揺と(すき)が混在していた。

 キン、と甲高い音が響いた。それと同時に男が唸り、右手を押さえた。

 振り上げた深緋の蹴りで、アイスピックが落下し、円を描くようにして地面に転がった。

 濃紺の夜空には、まん丸に近い月が浮かんでいる。薄い黄色のセロハンを被せたように鮮やかな光を放っている。

 昔から月光を浴びると、どういうわけか体が軽くなり、エネルギーに満ち溢れる。
 きっと頭のてっぺんからつま先までを巡る、吸血鬼の血が作用しているのだろう。

 凶器をすぐさまスニーカーの爪先で蹴飛ばし、深緋は迅速な動きで男の懐に入った。

 大きく口を開けて、ガブリと牙を突き立てる。飢餓状態と怒りが相まって、いつもよりジュルルと音がたち、乱暴な吸い方になる。

 吸われた直後、男はビクビクと痙攣していたが、やがてはそれも鎮まり動かなくなった。

 うーん……?
「いまいち……」

 薄い血にそもそもの美味しさを感じられない。見た目が良くても所詮はこんなものか。

 生気の抜けた男を地面に捨て置き、深緋は手の甲で口元を拭った。バストが楽になり、外見は元の上限姿に戻った。
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