吸血少女はハニーブラッドをご所望です(コミカライズ原作です)
「大事なもんなんだな」
「……うん。ありがとう」

 ようやく手にした母の写真を、改めて見つめ直す。どこか潤んだ瞳で微笑む母の顔は、幸せそうでもあり、悲しそうでもある。

 そういえば、お母さんは何で写真なんか残したんだろう?

 今まで考えもしなかったことをふと疑問に思った。単純に自分に見せるためだとは思えなかった。それなら、父親の顔を報せてくれてもいいからだ。

 深緋は本来、写真に映るのを嫌っている。祖母も同様だ。

 何年経っても姿が変わらないので、カメラを避けるのは至極当たり前の習慣だった。撮った写真に日付なんかが印字されたりしたら、それは見た人間にとってホラー写真になる。

「それ、何なのか聞いてもいい?」

 急に声を掛けられてハッと肩を揺らした。スマホを操作し、白翔がライトを消した。

「だれかの写真みたいだけど……裏になんか書いてあったから」
「……え。裏?」

 白翔の言葉に倣い、深緋は小さな写真をひっくり返した。

 “月夜に猫、谷に女帝”。

 縦書きで、確かにそう書いてある。何を意味する言葉なのか、全く見当もつかない。「わからない」と呟き、首を振る。

「こんな文字が書いてあるの、今初めて知った」
「そうなんだ?」

 いつの間にか白翔が隣りから覗き込んでいて、「何かの暗号みたいじゃね?」と冗談めかして笑った。
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