恋愛Sim★comp

テレビ局のインタビュー後。
地下の通路に、昔使っていたラジオの収録室。
君がそこにいると、担当の嶋関が言う。
タイムリミットは、次の撮影の時間まで。移動時間を引いた5分。
あの日から、10日経っていた。
君の心は、もう解放されているだろうか?
5分……防音ガラスが、俺たちを区切る。通路は狭く、暗い。
近づくにつれ、泣きそうだ。
比名琴……防音ガラス越しに、君との再会。君は、涙を浮かべ……零す。
手を置いたガラスは冷たく、曇り止めが効いているのか……白くなることは無い。
俺の目の前で、気丈な君が涙を流す。
「泣くな。」
「比名琴……俺を見てくれ。」
声は届かない。
手を伸ばして、涙を拭ってやることも出来ない。
【ドンッ】
左手で拳をぶつけた。
音は遮断されている。君に届かない……

「幾久君、そろそろ時間だよ!」
空気の読めない担当が、俺を急かす。
「比名琴!比名琴ぃ!!」
声が届くはずもないのに、君は俺を見た。
俺の両手に、手をガラス越しに重ね……額を当て、うつむいた。
俺は、その額にキスを落とす。
冷たい……無機質なガラス。
俺のキスに気がついて、微笑んだ。
愛しい……心が通う。俺も君も、目を細め……見つめる。
ガラス越しに、近づく表情が……想いを告げる。
「好きよ。」
「好きだ。」
ギリギリまで、目を開けたまま唇がガラスに触れる。
目を閉じた。多分、同時……。

「時間です。行きましょう……」
俺は顔を、目を閉じたまま背けた。君を見ることなく……その場を去った。
君は、俺を見ただろうか?
卑怯な俺を……君を最後に見つめることも出来ずに去った男を……


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