恋愛Sim★comp

その名前を聞くだけで、涙が出そうだ。
テレビをこの家からなくした。新聞も週刊誌も見ない。
「ちょっと、出かけます。」
立ち上がった彼を、引き留めた。
「嶋関さん……ごめん。あなたの境遇は、編集長にお願いした。今日が、俺と最後の仕事だ。……原稿を持って帰って。今まで、お世話になりました。」
いつになく、嶋関は黙って去って行く。
何か言ってくれ……気が利き過ぎだろ?
それなのに、お約束のように……原稿を忘れていく。
嶋関……最後まで使えない。
はぁ……あなたは、俺と比名琴との思い出に係わりすぎた。
思い出が、痛い……
夢に酔い、幸せに浸り……永遠を感じたあの日を壊したのは、俺だ。
すべて、俺の所為。
比名琴……比名琴……君の笑顔。唇……温もり、匂い……
この心。想い……過ごした時間が……苦しい……

俺はこの世界にいた。君に出会わなければ、ずっと……独りの文字の世界。
君が俺の世界を変えた。
そして、君が……いや、君から離れれば……俺は、この世界に戻るしかない。
そんな生き方……
【携帯のコール音】表示に、命。
夏梅生 命(なつめき みこと)。
比名琴の友達の彼氏。彼も、比名琴との出会いが無ければ……
結局、出ずにコール音が止まるのを見ていた。
「……ひっで~。俺まで、無視かよ……。彪なら、しょうがないとしても。俺は相手をして欲しいぜ。」
……??
「命、どうして??」
2階の仕事場……現れた命に、驚いた。
今まで、来たことがなかったのに……
「嶋関さんが、鼻水垂らしながら大学の門番に捕まってさ~。」
……嶋関、どこまで俺の交友範囲を把握してるんだ??
仕事も、それぐらい……実は優秀??
「幾久、聞いてる?俺、友達じゃない?」
命の表情は、悲しそうだった。
「入って。話をしよう……」
多分、比名琴のこと……だよね?
「今更だけど、お邪魔します。」
命は、嶋関さんの零した汁を布巾で拭く。
もう、時間が経って乾いているのか……ゴシゴシと力を入れて。
「柊規から聞いた。」
三ツ森 柊規(みつもり しゅうき)。
命の彼女。比名琴の友達だ。


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