蒼穹の覇者は、激愛で契約妻と秘密の我が子を逃がさない
 その日の夜、玲奈は初めて悠眞と同じベッドで眠った。
 これまで男性経験はおろか、告白や交際もしたことのなかった玲奈にとって、悠眞と同じベッドで寝るだけでもかなり緊張する行為だ。
 だけどそんな緊張なんて、愛する人と一緒にいたいという思いにあっさり凌駕されてしまう。
 好きな人と一緒にいたい。
 相手の存在を肌で感じて、溶け合うように一つの存在になりたいと思うのは、きっと生命の本能のようなものなのだ。
 だから暗い寝室で身を寄せ合って互いの温もりを感じていると、どちらからともなく、その先を求めてしまう。

「玲奈、君に触れてもいいか?」

 両想いと知ってなお、律儀そう確認する彼に愛おしさが湧く。

「はい」

 玲奈が小さく答えると、悠眞が彼女に覆い被さって唇を重ねる。
 お互いの想いが同じであると知ってから、唇を触れ合わせるようなキスを何度も交わした。
 だけどベッドの中で交わすキスは、それとは全く違う大人のキスだ。
 唇を重ねた悠眞は、舌先で玲奈の唇を撫でる。
 そうかと思うと、少し唇を離して薄い前歯で玲奈の下唇を甘噛みしたりする。
 その全てが、これまで玲奈が知ることのなかった刺激だ。

「ん……ぁっ」

 玲奈は悠眞の腕の中でもどかしげな息を漏らした。
 彼が腕でバランスを取って体重を加減にしてくれているので、息苦しいということはないが、緊張でうまく息ができない。
 キスだけで既に頭がクラクラしてくるし、男性に組み敷かれてキスを与えられるという状況はかなり恥ずかしいのに、やめてほしいとは思わない。
 それどころか、もっと彼がほしいと思ってしまう。

(これって、独占欲なのかな?)

 玲奈が悠眞を求めるのと同じくらい、彼に自分を求めてほしい。
 恋愛経験皆無に等しい玲奈は、そんな思いを彼にどう伝えればいいかわからず、彼の背中に腕を回して強く抱きしめるのがやっとだった。
 離れたくない。ずっと一緒にいたい。そんな思いを込めて、回す腕に力を込めて囁く。

「大好きです」

 慣れない告白に、羞恥と緊張で、胸の鼓動はさらに高まっていく。

「ありがとう」

 悠眞は、そう言って玲奈の頬を撫でた。
 愛情を凝縮させたような彼の声と、熱っぽい眼差しが恥ずかしくて、玲奈は悠眞の胸に顔を埋めた。
 そうすることでふと、彼の鼓動も玲奈と同じくらい高鳴っていることに気付いた。

「悠眞さん、緊張しているんですか?」

 玲奈と違い、過去には恋愛経験もありそうな彼がまさか。そうは思うのだけれど、胸の鼓動の速さから彼の緊張が伝わってくる。

「悪いか」

 玲奈の顔を見ないまま、悠眞がぶっきらぼうに言う。

「いえ、あの……悠眞さんは、こういうことに慣れていると思ったから」

 玲奈が慌ててそう言うと、悠眞は、自分の体を支える腕の角度を調節して、玲奈の顔を覗き込む。
 そうやって玲奈と視線を合わせて言う。

「過去に女性経験がなかったとは言わない。だけど結婚したいと思うくらい惚れた女性に触れるのは、俺も初めてなんだ」

 彼のその言葉に、玲奈の気持ちがほぐれる。
 改めて鷹條悠眞という人に、恋をした気分だ。

(人を好きになることに、慣れることなんてないんだ。そして私は、これから何度でも、この人に恋をする)

 これまで玲奈は、誰かを愛するという感情は、ひとりに対して一度きりのものだと思っていた。
 だけどそれは勘違いで、きっと人は同じ相手に何度でも恋をするのだ。
 些細な彼の一面に、無器用な優しさに、何気ない暮らしの中の一場面で、これから玲奈は何度も悠眞に恋をする。
 そうやって幾重にも愛おしさを重ねて、これから玲奈は彼との家庭を築いていくのだ。
 それこそ、玲奈が夢に描いていた結婚のあり方だ。

「あの日、悠眞さんに出会えてよかった」

 人生の歯車がいくつか狂わなければ、彼と出会うことはなかった。そう思うと、それまでの日々の苦しさを忘れることができる。
 だってこれからは、愛する人と共に生きる幸せな人生が待っているのだから。

「それは、俺の台詞だ。……玲奈、愛している」

 悠眞は、そう囁いて唇を重ねる。
 玲奈が『私も愛しています』と返そうと口を開くと、悠眞の舌が侵入してきた。
 初めてのことに、思わず玲奈の体が小さく跳ねる。

「玲奈、怖がらないで」

 もちろん玲奈だって、彼を拒絶するつもりはない。だからんな自分の思いを伝えたくて、玲奈はそっと瞼を伏せて彼に身を委ねた。
 悠眞がそう言って、宥めるように肩から腰へと玲奈のボディーラインを撫でていく。
 お互いホテルの浴衣を着ているけど、どちらも既にかなり寝乱れている。
 彼の手の動きに合わせて、浴衣の生地が引っぱられて肩が露わになると、悠眞は玲奈の首筋に顔を寄せた。
 首筋に触れる彼の息遣いがくすぐったくて、玲奈は思わず身を捩る。

「玲奈は首が感じやすいんだな」

「違っ」

 実際に首が感じやすいのかどうかなんて、玲奈自身よくわかっていない。
 だけど悠眞にそんなふうに指摘されると、自分が淫乱だと言われているようで恥ずかしい。
 慌てて否定する玲奈の耳元に顔を寄せて悠眞が囁く。

「じゃあ、どこが弱いのかちゃんと教えて」

「あっ」

 ついでに耳朶を甘噛みされて、玲奈は意図せず甘い声を漏らしてしまう。
 そんな玲奈の反応に、悠眞が「嘘つき」と、揶揄ってくるので恥ずかしい。

「意地悪」

 玲奈は顔を赤くして悠眞に抗議した。
 でも彼が反省してくれる様子はない。

「玲奈が可愛いからつい」

 そんなことを言って、玲奈の肌に唇を這わせていく。
 ツンと突き出した舌が、肌に唾液の筋を作っていく感覚に、玲奈がつい身を捩ると悠眞が言う。

「緊張しないで、ゆっくり俺を感じて」

 彼に甘い声でそんなことを囁かれると、つい言われたとおりにしてしまう。

「はい」

 玲奈がおずおずと体の力を抜くと、悠眞は「いい子だ」と、ちょっと揶揄うような口調で囁いて玲奈の髪を撫で頬に口付けをする。
 そしてそのまま、指や唇で玲奈の弱い場所を探っていく。
 悠眞に身を委ねる玲奈は、彼から与えられる刺激のままに体を跳ねさせ、甘い吐息を漏らした。
 悠眞の動きは巧みで、全てが初めての体験である玲奈の心を捉えてしまう。
 まるで魔法でもかけられたみたいに、玲奈の心も体も、悠眞の求めるままに作り替えられていくような気がした。

(きっともう、私は悠眞さんなしでは生きていけない)

 本気でそう思ってしまうほど、強烈な愛情が胸を支配する。
 そうやって玲奈の心を満たした後で、悠眞は自分のものを玲奈の中へと沈めてきた。
 初めての挿入に痛みがなかったと言えば嘘になる。だけど、悠眞が時間をかけて解してくれたこともあり、それほど強烈な痛みではなかった。
 そして痛み以上に、彼とひとつになれた喜びが玲奈の胸を凌駕していた。
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