蒼穹の覇者は、激愛で契約妻と秘密の我が子を逃がさない
 色々な感情の行き違いがあっても、家族は家族。
 そう思って急いで実家に戻った玲奈は、リビングに入って驚きに目を丸くした。

「お、お父さん、倒れたんじゃないの?」

 思わず声を詰まらせる玲奈の見つめる先、ゆったりとした造りのカウチに身を預ける幸平は、タバコをくゆらせている。

「なんだ、思ったより遅かったな」

 タバコの煙を吐き出すついでに文句を言う幸平は、病人といった様子ではない。一瞬、一時退院でもしているのかと思ったが、たぶん違うだろう。
 答えを求めて花乃へと視線を向けると、彼女は頬に手を添えて大げさにため息をつく。

「だってあなた、そうでも言わないと、帰ってこないでしょ? 本当に恥さらしなうえに、薄情なんだから」

「本当にお前は、自分のことしか考えていないからな。早瀬建設との縁談を逃して、私たちがどれだけ恥ずかしい思いをさせられたか」

「そんな……」

 玲奈が一方的に悪いと言いたげな両親の態度に、これまでのことを思いだし、胃の底がざらつく。
 きっと今までの玲奈なら、両親の機嫌を損ねた自分がいけないのだと思い、すぐに謝っていただろう。
 でも、鷹翔との暮らしで、自分らしさを培った今は違う。

「そんな噓をつかなくても、用があればちゃんと帰ってきました。もともとパスポートを取りに来なくちゃいけなかったし」

 その目的があったから、実家に電話をかけたのだ。
 できればもっと穏便に結婚の報告をして、多少なりとも和解できればと思っていた。だけど、こんな騙し討ちのような呼び出しをされると、本気で心配した分、よけいに腹が立つ。

(やっぱり、お父さんたちとはわかり合えないかも)

 そのことを寂しく思いながらも、玲奈は悠眞との未来のために気持ちを切り替える。

「それで電話で少し話したけど、私、彼と結婚してアメリカに移住します。そのためにパスポートが必要だから連絡したの」

 報告すべきことを報告して、パスポートを受け取ったら帰ろう。そして、もう二度と、家族とは連絡を取らない。
 そんなふうに覚悟を決める玲奈に、幸平が唇をいびつに歪めて笑う。

「そうか。なら、パスポートは渡せんな」

「えっ……どうして?」

 どうしてそんな意地悪を言うのだろう?
 わけがわからず目を丸くする玲奈に、花乃が言う。

「玲奈にいい縁談話をもらっから、あなたを探していたのよ。なんでも先方は、なにかのパーティーであなたを見かけて、気に入っていたんですって。それで早瀬建設との縁談が破談になったと知ってね……」

「相手は、四十過ぎで離婚歴もあるが、やり手の会社経営者だ。早瀬建設の次男なんて、目じゃないぞ」

「そうそう。早瀬建設の次男といえば、瑠依奈さんと旦那さん、うまくいってないらしいわよ。近々離婚するんじゃないかって、噂まであるくらいよ」

「きっと相手が、瑠依奈さんのワガママぶりに付き合いきれなくなったんだろう」

「あら、彼の浮気が原因らしいわよ。なんにせよウチの邪魔をしておいて、最後は離婚。ほんといい気味ね」

 代わる代わる身勝手なことを話すふたりの姿に、自分の両親がこういう人だとわかっていたはずでも、ひどく裏切られた気分にさせられる。

「もう、お父さんとお母さんの言いなりになんてならない。結婚相手は、自分で決めます」

 そう宣言する玲奈に、両親は目を見開く。

「なんてこと言うんだっ! そんなことを言うなら、相手の男を連れてこい。本家に自慢できるような家柄なら、お前のワガママを聞いてやる」

「そうよ。やっと本家を見返すチャンスなのに、玲奈ひとりのワガママで、私たちにまた迷惑をかけるつもり?」

「相手の家は……」

 縁談の相手の企業がどの程度の規模かはわからないが、悠眞が鷹翔グループの御曹司と知れば、両親は納得するだろう。
 でもそうなれば、これから両親が悠眞や鷹翔グループを、自分たちの虚栄心を満たす道具にするに違いない。
 グッと黙り込む玲奈に、幸平が言い放つ。

「親の反対を押し切って、そのろくでもない男と結婚すると言うなら、相手の家に乗り込んででも破談にしてやるからな」

 その言葉が、玲奈の思いを打ち砕く。
 悠眞を愛しているからこそ、こんな両親を持った自分が、彼の家族になるわけにはいかない。
 そう思うと、玲奈の中で覚悟が決まる。
< 24 / 45 >

この作品をシェア

pagetop