蒼穹の覇者は、激愛で契約妻と秘密の我が子を逃がさない
そしてその日の夜、玲奈は、退職祝いをしようという両親と、レストランを訪れていた。
「玲奈が早瀬建設の次男と結婚するって話した時の、瑠依奈さんと千鶴さんの顔ときたら」
母の花乃は、そう言ってさも愉快そうに笑う。
「瑠依奈さんは、昔から勉強でも習い事でも玲奈に勝てなかったんだ、縁談も先を越されて、さぞ悔しかったんだろうな」
父の幸平も、満足げに頷く。
二人が言う〝瑠依奈さん〟とは、白石家本家、白石商事の現社長の一人娘のことで、〝千鶴さん〟はその母親の名前だ。
白石家の分家筋に生まれた玲奈にとって瑠依奈は、はとこにあたり、かなり遠い親戚といった感じだ。
それでもたまたまふたりが同い年というだけで、本家に異常なまでの対抗心を燃やす玲奈の両親は、玲奈と瑠依奈を比べたがる。
「瑠依奈さんなんて、たまたま本家の娘に生まれただけで、玲奈に勝てるものなんてなにもないというのが、がわからんのかね」
「本当に愚かよね。ちょっと考えればわかりそうなものなに、千鶴さんときたら、自分の方が本家だからって、張り合って……どんなに頑張ったところで、瑠依奈さんじゃ、玲奈の相手にならないわ」
口々に話す幸平と花乃は、だから玲奈の親である自分たちの方が上なのだと、言外に主張する。
(子供の頃からそうだった……)
機械的に料理を口に運びながら、玲奈は、これまでのことをふり返る。
幼い頃から、瑠依奈がピアノを習い始めたと聞けば玲奈も教室に通わされ、バレエを始めたと知れば、同じことを強要された。
そして必ず、瑠依奈より上の成績を収めることを、求められたのだ。
幸か不幸か、玲奈には両親の希望に応えられるだけの才覚があり、結果、両親の虚栄心を満たす代わりに、玲奈は瑠依奈親子に目の敵にされるようになっていった。
でもそんなくだらない争いも、学校を卒業するまでのこと。
根っからのお嬢様育ちで手が汚れるような作業を嫌う瑠依奈とは違い、料理好きな玲奈は、飲食業の分野に進むつもりでいたので、それぞれ別の分野に就職すれば競いようがない。
玲奈はそう思っていたのだけど、両親の考えは違った。
瑠依奈が白石商事の社長秘書になると聞き、玲奈にも自社の社長秘書になるよう強要した。
それはもちろん、瑠依奈に対抗してのことだ。
だけど所詮は本家と分家、白石運輸は白石商事の子会社なのだから、娘を同じ社長秘書に据えたところで、両親の虚栄心を満たすことはできない。
それで納得して諦めてくれればいいのに、今度は、娘の結婚相手で本家に対抗しようと考えた。
そのために玲奈の両親は自分たちの人脈を駆使して、早瀬建設社長の次男との結婚を勝手に決めてしまったのだ。
「いいか玲奈、結婚したら、本家の誰にも負けない優秀な子供を生むんだぞ」
そしてその子供も両親の虚栄心を満たす道具に使うのかと思うと、まだ見ぬ我が子が気の毒になる。
「子供なんて……、まだ結婚もしていないのに」
玲奈がどうにか反論しようとした途端、花乃が鋭い声でそれを叱る。
「玲奈、お父さんに口答えするなんて何事? なんのために、あなたを育てて、結婚までさせてあげると思っているの?」
子供の頃から親の叱責に萎縮しきっている玲奈は、ヒステリックな声に体をこわばらせ、感情を呑み込んだ。
表情を硬くして黙り込む玲奈をよそに、幸平と花乃は、一ヶ月後の四月吉日に挙げる挙式の話で盛り上がっていく。
有名な式場に、華やかなウエディングドレス、錚々たる招待客の顔ぶれ。
そういったことばかり誇らしげに語る両親を見れば、彼らにとって玲奈の結婚が、娘の幸せを願ってのものでなく、本家に見せ付けるためのものなのだと思い知らされる。
(こんな結婚で、幸せになれるわけがない)
夫になる晃は、華やかな人ではあるが、話していると会話の端々に軽薄さや、時代錯誤な女性蔑視の価値観が滲み出ていて好感が持てない。
そんな人と、この先の人生を共にするのかと思うと憂鬱だ。
だけど子供の頃から萎縮して育ち、親への反抗の仕方さえわからない玲奈には、ふたりの暴走を止めることができない。
だからこのまま、早瀬建設の次男と結婚するしかないと諦めていたのだけど、その週の週末、事態が一変した。
「玲奈が早瀬建設の次男と結婚するって話した時の、瑠依奈さんと千鶴さんの顔ときたら」
母の花乃は、そう言ってさも愉快そうに笑う。
「瑠依奈さんは、昔から勉強でも習い事でも玲奈に勝てなかったんだ、縁談も先を越されて、さぞ悔しかったんだろうな」
父の幸平も、満足げに頷く。
二人が言う〝瑠依奈さん〟とは、白石家本家、白石商事の現社長の一人娘のことで、〝千鶴さん〟はその母親の名前だ。
白石家の分家筋に生まれた玲奈にとって瑠依奈は、はとこにあたり、かなり遠い親戚といった感じだ。
それでもたまたまふたりが同い年というだけで、本家に異常なまでの対抗心を燃やす玲奈の両親は、玲奈と瑠依奈を比べたがる。
「瑠依奈さんなんて、たまたま本家の娘に生まれただけで、玲奈に勝てるものなんてなにもないというのが、がわからんのかね」
「本当に愚かよね。ちょっと考えればわかりそうなものなに、千鶴さんときたら、自分の方が本家だからって、張り合って……どんなに頑張ったところで、瑠依奈さんじゃ、玲奈の相手にならないわ」
口々に話す幸平と花乃は、だから玲奈の親である自分たちの方が上なのだと、言外に主張する。
(子供の頃からそうだった……)
機械的に料理を口に運びながら、玲奈は、これまでのことをふり返る。
幼い頃から、瑠依奈がピアノを習い始めたと聞けば玲奈も教室に通わされ、バレエを始めたと知れば、同じことを強要された。
そして必ず、瑠依奈より上の成績を収めることを、求められたのだ。
幸か不幸か、玲奈には両親の希望に応えられるだけの才覚があり、結果、両親の虚栄心を満たす代わりに、玲奈は瑠依奈親子に目の敵にされるようになっていった。
でもそんなくだらない争いも、学校を卒業するまでのこと。
根っからのお嬢様育ちで手が汚れるような作業を嫌う瑠依奈とは違い、料理好きな玲奈は、飲食業の分野に進むつもりでいたので、それぞれ別の分野に就職すれば競いようがない。
玲奈はそう思っていたのだけど、両親の考えは違った。
瑠依奈が白石商事の社長秘書になると聞き、玲奈にも自社の社長秘書になるよう強要した。
それはもちろん、瑠依奈に対抗してのことだ。
だけど所詮は本家と分家、白石運輸は白石商事の子会社なのだから、娘を同じ社長秘書に据えたところで、両親の虚栄心を満たすことはできない。
それで納得して諦めてくれればいいのに、今度は、娘の結婚相手で本家に対抗しようと考えた。
そのために玲奈の両親は自分たちの人脈を駆使して、早瀬建設社長の次男との結婚を勝手に決めてしまったのだ。
「いいか玲奈、結婚したら、本家の誰にも負けない優秀な子供を生むんだぞ」
そしてその子供も両親の虚栄心を満たす道具に使うのかと思うと、まだ見ぬ我が子が気の毒になる。
「子供なんて……、まだ結婚もしていないのに」
玲奈がどうにか反論しようとした途端、花乃が鋭い声でそれを叱る。
「玲奈、お父さんに口答えするなんて何事? なんのために、あなたを育てて、結婚までさせてあげると思っているの?」
子供の頃から親の叱責に萎縮しきっている玲奈は、ヒステリックな声に体をこわばらせ、感情を呑み込んだ。
表情を硬くして黙り込む玲奈をよそに、幸平と花乃は、一ヶ月後の四月吉日に挙げる挙式の話で盛り上がっていく。
有名な式場に、華やかなウエディングドレス、錚々たる招待客の顔ぶれ。
そういったことばかり誇らしげに語る両親を見れば、彼らにとって玲奈の結婚が、娘の幸せを願ってのものでなく、本家に見せ付けるためのものなのだと思い知らされる。
(こんな結婚で、幸せになれるわけがない)
夫になる晃は、華やかな人ではあるが、話していると会話の端々に軽薄さや、時代錯誤な女性蔑視の価値観が滲み出ていて好感が持てない。
そんな人と、この先の人生を共にするのかと思うと憂鬱だ。
だけど子供の頃から萎縮して育ち、親への反抗の仕方さえわからない玲奈には、ふたりの暴走を止めることができない。
だからこのまま、早瀬建設の次男と結婚するしかないと諦めていたのだけど、その週の週末、事態が一変した。