蒼穹の覇者は、激愛で契約妻と秘密の我が子を逃がさない
土曜日、白石家のリビングで、突然訪れた瑠依奈親子を前に、幸平がテーブルを叩いて声を荒らげた。
「瑠依奈さんが、晃君と結婚するだと! どういうことだ!」
そんな幸平の態度に「乱暴で下品ね」と、口元をハンカチで隠して顔をしかめるのは、瑠依奈の母親である千鶴だ。
名家の出である彼女は、『同じ白石でも、本家と分家では格が違う』と、豪語して玲奈たち親子を常に見下している。
相手がそんなだからこそ、玲奈の両親は本家に対抗心を燃やし、長年玲奈を代理戦争の道具にしてきた。
その集大成ともいえる娘の結婚で、本家を出し抜いた持つもりでいた玲奈の両親は、突然の話に憤りが抑えられない。
怒りのあまり顔を赤くして拳を震わせる幸平の横で、花乃も鬼の形相をしている。
「あら恐い。でも、そういう顔を見てみたかったのよ」
千鶴は、意地悪く笑う。
「さっき言ったとおりだよ。晃君も、その父親である早瀬建設の社長も、どうせ白石家と縁続きになるなら、本家の方がいいと判断しただけだ」
そう言ってたるんだ顎を撫でるのは、瑠依奈の父である白石弘一郎だ。
「な、なにを……」
弘一郎は、声を震わす幸平を鼻で笑って「懸命な判断だな」と、付け足す。
「そうよ。聞けばこの縁談、花乃さんがかなり強引に推し進めたそうじゃない。早瀬家では、その浅ましい姿を見て、そんな女の娘を息子の嫁にしていいか悩んでいたそうよ」
ツンとした口調で話す千鶴の言葉に、花乃の頬に赤味が刺す。
咄嗟に否定しないということは、思い当たる節があるようだ。
それを見て、千鶴と瑠依奈が「これだから、分家は」と、笑い合う。
「しかし式までは、あと一ヶ月もない。式場は抑えてあるし、招待状も配った後だ。今さらそんなこと……」
幸平が、額に浮かぶ汗をハンカチで抑えて訴える。
すると弘一郎が、その言葉を待ち構えていたかのように言う。
「その件なら心配無用。せっかく用意した式場や招待状を無駄にすることもないから、ウチと早瀬家で使わせてもらうよ」
「なっ!」
非常識な提案に幸平が絶句する。その間に、相手は続ける。
「もちろん、新居にするために借りたマンションの契約金も含めて、結婚式にかかる費用は、全部我が家が払ってやる。ウチの財力からすればはした金だ」
「しかし、招待状には玲奈の名前が……」
「違うのは娘の名前の部分だけだろ? そんなもの、ミスプリントだとでも言えば済む話しだ」
「そうねぇ。中には、玲奈さんの名前が書かれていることを不思議に思って、花婿が瑠依奈に心変わりしたんじゃないかって噂する人がいるかもしれないけど、事実だから仕方ないわよね」
父親同士のやり取りに、千鶴が割り込む。そしてそのまま、意地の悪い眼差しを花乃に向ける。
瑠依奈も、母親の動きを真似るように玲奈を見て言う。
「あ、でも、ドレスは玲奈が選んだのなんて使わないわよ。あんなセンスのない安っぽいドレス、私には似合わないもの」
「そうね。瑠依奈には、白石家本家の娘として恥ずかしくないドレスを着せてあげなきゃ」
リビングに瑠依奈親子の悪意に満ちた笑い声が満ちていく。
そのやり取りに、玲奈は、この話は昨日今日決まったことではないのだと理解した。
瑠依奈の性格からして、玲奈の選んだドレスを着ないのはもとより、急いで準備したドレスに袖を通したりしないだろう。
だとしたら、瑠依奈親子は、かなり前からこの縁談を乗っ取る気でいたのだ。
そして万全の準備を整えたうえで、式が押し迫ったこのタイミングで、それを告げに来たのだ。
相変わらずの性格の悪さである。
招待状に書かれた新婦の名前にしても、玲奈親子に恥をかかせるために、あえてそうするのだろう。
なにも言えずにいる玲奈を前に、瑠依奈が勝ち誇った表情で言う。
「玲奈、晃さんに捨てられるなんて思わずに、会社辞めちゃったんだよね? 可哀想だから、私の代わりにパパの秘書をする? ねえパパ、惨めな玲奈を、可哀想だからウチで雇ってあげてよ」
瑠依奈は、そのまま口元を手で隠してキャハハと笑う。
そんな娘の言動に、弘一郎は「瑠依奈は優しいな」などと言うけど、どこにも優しさなんて感じられない。
さらに玲奈を笑いものにしようとしているだけだ。
玲奈としては、早瀬晃との結婚を心待ちにしていたわけではないので、破談はかまわないのだけれど、それでも突然のことに思考がうまく追いつかない。
「今はまだ、有休消化に入っただけで、私の籍は白石運輸にありますから大丈夫です」
混乱する頭のまま、そう答えてハッとする。
現在玲奈は、退職に向けて有給休暇の消化をしている最中のため、まだ正式な退職の手続きはしていない。
それなら、結婚が中止になったのだから、また白石運輸で働けばいいだけだ。
社長秘書の仕事は、結菜に引き継いだので、他の部署で構わない。
「花婿を横取りされた上に、会社に出戻るなんてみっともないこと、できるわけないだろっ!」
一瞬、名案に思えた玲奈の考えを、幸平の怒号が打ち砕く。
隣では花乃も同じように「これ以上、親の顔に泥を塗るような発言はよしてちょうだい」と、金切り声を上げている。
「みっともないって……」
もとから玲奈は、この縁談を望んではいなかった。
縁談だけじゃない。就職も退職も、全て両親が決めた道筋なのに、望まない結果が見えてきた途端、全て玲奈のせいだとでも言いたげに振る舞う。
そんな両親の身勝手さに、視界がじわりと滲む。
でもこの人たちの前で涙を見せたくはないと堪えていると、テーブルを挟んで座る瑠依奈が、玲奈を見詰めて声を出さずに『ざまあみろ』と、唇を動かす。
その露骨な悪意に、相手を直視できなくなった玲奈は俯くことしかできなかった。
その間に瑠依奈の両親は、憤慨する幸平と花乃に、親族として家族全員で結婚式に参列することを約束させた。
普段過剰なまでの対抗心を燃やしていて、陰口をたたいていても、相手は白石運輸の親会社の社長なのだ。どれだけ悔しくても、それを断ることはできない。
渋々相手の申し出を了承する玲奈の両親は、その憤りを、役立たずな娘に向けるのだった。
「瑠依奈さんが、晃君と結婚するだと! どういうことだ!」
そんな幸平の態度に「乱暴で下品ね」と、口元をハンカチで隠して顔をしかめるのは、瑠依奈の母親である千鶴だ。
名家の出である彼女は、『同じ白石でも、本家と分家では格が違う』と、豪語して玲奈たち親子を常に見下している。
相手がそんなだからこそ、玲奈の両親は本家に対抗心を燃やし、長年玲奈を代理戦争の道具にしてきた。
その集大成ともいえる娘の結婚で、本家を出し抜いた持つもりでいた玲奈の両親は、突然の話に憤りが抑えられない。
怒りのあまり顔を赤くして拳を震わせる幸平の横で、花乃も鬼の形相をしている。
「あら恐い。でも、そういう顔を見てみたかったのよ」
千鶴は、意地悪く笑う。
「さっき言ったとおりだよ。晃君も、その父親である早瀬建設の社長も、どうせ白石家と縁続きになるなら、本家の方がいいと判断しただけだ」
そう言ってたるんだ顎を撫でるのは、瑠依奈の父である白石弘一郎だ。
「な、なにを……」
弘一郎は、声を震わす幸平を鼻で笑って「懸命な判断だな」と、付け足す。
「そうよ。聞けばこの縁談、花乃さんがかなり強引に推し進めたそうじゃない。早瀬家では、その浅ましい姿を見て、そんな女の娘を息子の嫁にしていいか悩んでいたそうよ」
ツンとした口調で話す千鶴の言葉に、花乃の頬に赤味が刺す。
咄嗟に否定しないということは、思い当たる節があるようだ。
それを見て、千鶴と瑠依奈が「これだから、分家は」と、笑い合う。
「しかし式までは、あと一ヶ月もない。式場は抑えてあるし、招待状も配った後だ。今さらそんなこと……」
幸平が、額に浮かぶ汗をハンカチで抑えて訴える。
すると弘一郎が、その言葉を待ち構えていたかのように言う。
「その件なら心配無用。せっかく用意した式場や招待状を無駄にすることもないから、ウチと早瀬家で使わせてもらうよ」
「なっ!」
非常識な提案に幸平が絶句する。その間に、相手は続ける。
「もちろん、新居にするために借りたマンションの契約金も含めて、結婚式にかかる費用は、全部我が家が払ってやる。ウチの財力からすればはした金だ」
「しかし、招待状には玲奈の名前が……」
「違うのは娘の名前の部分だけだろ? そんなもの、ミスプリントだとでも言えば済む話しだ」
「そうねぇ。中には、玲奈さんの名前が書かれていることを不思議に思って、花婿が瑠依奈に心変わりしたんじゃないかって噂する人がいるかもしれないけど、事実だから仕方ないわよね」
父親同士のやり取りに、千鶴が割り込む。そしてそのまま、意地の悪い眼差しを花乃に向ける。
瑠依奈も、母親の動きを真似るように玲奈を見て言う。
「あ、でも、ドレスは玲奈が選んだのなんて使わないわよ。あんなセンスのない安っぽいドレス、私には似合わないもの」
「そうね。瑠依奈には、白石家本家の娘として恥ずかしくないドレスを着せてあげなきゃ」
リビングに瑠依奈親子の悪意に満ちた笑い声が満ちていく。
そのやり取りに、玲奈は、この話は昨日今日決まったことではないのだと理解した。
瑠依奈の性格からして、玲奈の選んだドレスを着ないのはもとより、急いで準備したドレスに袖を通したりしないだろう。
だとしたら、瑠依奈親子は、かなり前からこの縁談を乗っ取る気でいたのだ。
そして万全の準備を整えたうえで、式が押し迫ったこのタイミングで、それを告げに来たのだ。
相変わらずの性格の悪さである。
招待状に書かれた新婦の名前にしても、玲奈親子に恥をかかせるために、あえてそうするのだろう。
なにも言えずにいる玲奈を前に、瑠依奈が勝ち誇った表情で言う。
「玲奈、晃さんに捨てられるなんて思わずに、会社辞めちゃったんだよね? 可哀想だから、私の代わりにパパの秘書をする? ねえパパ、惨めな玲奈を、可哀想だからウチで雇ってあげてよ」
瑠依奈は、そのまま口元を手で隠してキャハハと笑う。
そんな娘の言動に、弘一郎は「瑠依奈は優しいな」などと言うけど、どこにも優しさなんて感じられない。
さらに玲奈を笑いものにしようとしているだけだ。
玲奈としては、早瀬晃との結婚を心待ちにしていたわけではないので、破談はかまわないのだけれど、それでも突然のことに思考がうまく追いつかない。
「今はまだ、有休消化に入っただけで、私の籍は白石運輸にありますから大丈夫です」
混乱する頭のまま、そう答えてハッとする。
現在玲奈は、退職に向けて有給休暇の消化をしている最中のため、まだ正式な退職の手続きはしていない。
それなら、結婚が中止になったのだから、また白石運輸で働けばいいだけだ。
社長秘書の仕事は、結菜に引き継いだので、他の部署で構わない。
「花婿を横取りされた上に、会社に出戻るなんてみっともないこと、できるわけないだろっ!」
一瞬、名案に思えた玲奈の考えを、幸平の怒号が打ち砕く。
隣では花乃も同じように「これ以上、親の顔に泥を塗るような発言はよしてちょうだい」と、金切り声を上げている。
「みっともないって……」
もとから玲奈は、この縁談を望んではいなかった。
縁談だけじゃない。就職も退職も、全て両親が決めた道筋なのに、望まない結果が見えてきた途端、全て玲奈のせいだとでも言いたげに振る舞う。
そんな両親の身勝手さに、視界がじわりと滲む。
でもこの人たちの前で涙を見せたくはないと堪えていると、テーブルを挟んで座る瑠依奈が、玲奈を見詰めて声を出さずに『ざまあみろ』と、唇を動かす。
その露骨な悪意に、相手を直視できなくなった玲奈は俯くことしかできなかった。
その間に瑠依奈の両親は、憤慨する幸平と花乃に、親族として家族全員で結婚式に参列することを約束させた。
普段過剰なまでの対抗心を燃やしていて、陰口をたたいていても、相手は白石運輸の親会社の社長なのだ。どれだけ悔しくても、それを断ることはできない。
渋々相手の申し出を了承する玲奈の両親は、その憤りを、役立たずな娘に向けるのだった。