蒼穹の覇者は、激愛で契約妻と秘密の我が子を逃がさない
◇◇◇
その日の夜、悠眞は散歩に出かけた。
バウムクローネを出て夜道を歩く悠眞は、外灯に照らされた桜の下に立つ玲奈を見つけて、軽く手を上げて合図する。
べつに彼女と待ち合わせていたわけでないが、ここに来れば会えると思っていたのは玲奈も同じなのだろう。悠眞に気付くと、玲奈も小さく手を振り返す。
「子供たちは?」
「もう寝ました。それに、梢さんが様子を見てくれるから大丈夫です」
そう言って、ふたりどちらからともなく歩き出す。
並んで歩きながら、悠眞は、瑠依奈と知り合った経緯を話した。
その話を聞いた玲奈から、彼女の両親が急に押しかけてきて優聖を瑠依奈の養子にしろと迫ってきたという話を聞かされた時には血の気が引いた。
「すまない。まさかそんなことになっていたとは……」
悠眞が妙な義務感をもたないようにと、梢も玲奈も黙っていたのだと聞かされて、彼女の芯の強さに改めて惚れなおした。
「でも両親と向き合ったおかげで、子供たちの親として、もっと強くならなきゃいけないって覚悟を決めることができたんです。だから悠眞さんがいなくても、次に両親が来た時は、自分で追い返すつもりでいました」
玲奈は肘を曲げて、力こぶを作るジェスチャーをしてみせた。
長袖のパーカーを羽織っている彼女の腕に力こぶがでいているかは不明だが、それでも出会った頃には感じられなかった力強さが伝わってくる。
悠眞には、守るだけの存在ではなくなっている玲奈の姿が眩しい。
そのままお互い、昨日話しきれなかったこれまでのことを話し、お互いに会えずにいた時間を埋め合っていく。そしてひとしきり話し終えたタイミングで、玲奈が足を止めてパーカーのポケットから小さな箱を取り出す。
「これ……」
そう言って玲奈が差し出すのは、先日悠眞が彼女に預けたリングケースだ。
今も玲奈の左手に指輪が嵌められていないことには気付いていた。
このくらいのことでは玲奈が自分のことを認めてくれないというなら、それはそれで構わない。
だけど指輪を突き返されることに、心臓が締め付けられるような苦しみを覚えた。
胸の痛みに身動きが取れずにいる悠眞に、玲奈が言う。
「悠眞さんの手で嵌めてください」
「え?」
思いがけない言葉に視線を向けると、玲奈がはにかむ。
「最初はそういうものかと」
玲奈のその言葉に、あまりの幸福感に膝から崩れ落ちそうになった。
だけど愛する人に、そんな情けない姿は見せられないと、どうにかそれを踏みとどまる。
「ありがとう」
何食わぬ顔でそう言って、リングケースから指輪を取りだし、玲奈の左手を取った。
「玲奈、永久の愛を君に誓う」
ありったけの思いを声に込めて、薬指に指輪を嵌める。
「私も、悠眞さんのことを永遠に愛しています」
三年間渡せずにいた指輪を嵌めた玲奈が、涙に潤んだ目で悠眞を見上げた。
「玲奈、出会ってくれてありがとう」
「悠眞さん」
名前を呼び合い、唇を重ねる。
どれだけ言葉にしても伝えきれない思いが、唇を重ねることで伝わってくるから不思議だ。
手を取り合い、唇を重ねるふたりの上では、はらりはらりと残り少ない桜の花びらが舞い落ちていく。
「……」
「どうかしましたか?」
唇を離した悠眞が小さく笑うのを見逃さなかった玲奈が、小首をかしげた。
「いや、玲奈が人間でよかったなと思っただけだ」
「はい?」
玲奈が、いよいよ納得のいかない顔をする。
桜の花びらが舞う下でキスをして、四年前、出会った瞬間の彼女を桜の精ではないかと思ったことは、恥ずかしいので永遠の秘密だ。
(愛する妻への隠しごとはこれひとつだけにするから許してほしい)
心の中で詫びて、玲奈の手を引く。
「子供たちのところに帰ろう」
「はい」
悠眞の言葉に、玲奈が笑顔で頷く。
そうしてふたり手を繋いで、歩き出した。
その日の夜、悠眞は散歩に出かけた。
バウムクローネを出て夜道を歩く悠眞は、外灯に照らされた桜の下に立つ玲奈を見つけて、軽く手を上げて合図する。
べつに彼女と待ち合わせていたわけでないが、ここに来れば会えると思っていたのは玲奈も同じなのだろう。悠眞に気付くと、玲奈も小さく手を振り返す。
「子供たちは?」
「もう寝ました。それに、梢さんが様子を見てくれるから大丈夫です」
そう言って、ふたりどちらからともなく歩き出す。
並んで歩きながら、悠眞は、瑠依奈と知り合った経緯を話した。
その話を聞いた玲奈から、彼女の両親が急に押しかけてきて優聖を瑠依奈の養子にしろと迫ってきたという話を聞かされた時には血の気が引いた。
「すまない。まさかそんなことになっていたとは……」
悠眞が妙な義務感をもたないようにと、梢も玲奈も黙っていたのだと聞かされて、彼女の芯の強さに改めて惚れなおした。
「でも両親と向き合ったおかげで、子供たちの親として、もっと強くならなきゃいけないって覚悟を決めることができたんです。だから悠眞さんがいなくても、次に両親が来た時は、自分で追い返すつもりでいました」
玲奈は肘を曲げて、力こぶを作るジェスチャーをしてみせた。
長袖のパーカーを羽織っている彼女の腕に力こぶがでいているかは不明だが、それでも出会った頃には感じられなかった力強さが伝わってくる。
悠眞には、守るだけの存在ではなくなっている玲奈の姿が眩しい。
そのままお互い、昨日話しきれなかったこれまでのことを話し、お互いに会えずにいた時間を埋め合っていく。そしてひとしきり話し終えたタイミングで、玲奈が足を止めてパーカーのポケットから小さな箱を取り出す。
「これ……」
そう言って玲奈が差し出すのは、先日悠眞が彼女に預けたリングケースだ。
今も玲奈の左手に指輪が嵌められていないことには気付いていた。
このくらいのことでは玲奈が自分のことを認めてくれないというなら、それはそれで構わない。
だけど指輪を突き返されることに、心臓が締め付けられるような苦しみを覚えた。
胸の痛みに身動きが取れずにいる悠眞に、玲奈が言う。
「悠眞さんの手で嵌めてください」
「え?」
思いがけない言葉に視線を向けると、玲奈がはにかむ。
「最初はそういうものかと」
玲奈のその言葉に、あまりの幸福感に膝から崩れ落ちそうになった。
だけど愛する人に、そんな情けない姿は見せられないと、どうにかそれを踏みとどまる。
「ありがとう」
何食わぬ顔でそう言って、リングケースから指輪を取りだし、玲奈の左手を取った。
「玲奈、永久の愛を君に誓う」
ありったけの思いを声に込めて、薬指に指輪を嵌める。
「私も、悠眞さんのことを永遠に愛しています」
三年間渡せずにいた指輪を嵌めた玲奈が、涙に潤んだ目で悠眞を見上げた。
「玲奈、出会ってくれてありがとう」
「悠眞さん」
名前を呼び合い、唇を重ねる。
どれだけ言葉にしても伝えきれない思いが、唇を重ねることで伝わってくるから不思議だ。
手を取り合い、唇を重ねるふたりの上では、はらりはらりと残り少ない桜の花びらが舞い落ちていく。
「……」
「どうかしましたか?」
唇を離した悠眞が小さく笑うのを見逃さなかった玲奈が、小首をかしげた。
「いや、玲奈が人間でよかったなと思っただけだ」
「はい?」
玲奈が、いよいよ納得のいかない顔をする。
桜の花びらが舞う下でキスをして、四年前、出会った瞬間の彼女を桜の精ではないかと思ったことは、恥ずかしいので永遠の秘密だ。
(愛する妻への隠しごとはこれひとつだけにするから許してほしい)
心の中で詫びて、玲奈の手を引く。
「子供たちのところに帰ろう」
「はい」
悠眞の言葉に、玲奈が笑顔で頷く。
そうしてふたり手を繋いで、歩き出した。