Dearest My Lady
夜になり、ふたりはそれぞれの仕事を終えて家に戻った。
紬と央が、これからの人生を共に過ごすために一から設計に関わった新しい邸宅。華美な装飾に頼ることはなく、選び抜かれた素材と心地よい余白が、落ち着きと温もりを併せ持つ上質な時間を静かにつくり出している。
主照明を落としたリビングでは、間接照明だけが壁や天井をなぞるように灯り、空間に奥行きと柔らかな陰影を生んでいた。
食事と入浴を終え、日課になっている広いソファに並んで腰を下ろす。足元ではももが丸くなり、すでに小さな寝息を立てている。その穏やかな寝顔を眺めていると、昼間まで胸の奥に残っていた微かな緊張が、ゆっくりとほどけていくのを感じた。
「……いよいよ、明日だね」
紬の声に、央は小さく息を吸ってから頷く。
「うん。すっごく長かった」
その言葉に、紬はこれまでの時間を思い返した。準備に追われ、立場として背負うものの重さを意識せずにはいられなかった日々。それでも今夜は、不思議なほど胸が静かだった。
「正直ね……まだちょっとだけ、心配があったの」
そう前置きして、紬は央の方を見る。
「だけどもう、不安はないよ。これからは、なっちゃんに甘えるんだって決めたから」
一瞬、央は意外そうに目を瞬かせる。けれど次の瞬間には表情が緩み、少年みたいな笑顔がこぼれた。
「……そっか」
声を落として言い、そっと紬の肩を抱き寄せる。腕の中に収める仕草は自然で、それでいて大切なものを確かめるようでもあった。