Dearest My Lady
控え室を出ると、長い回廊の先に閉ざされたチャペルの扉が見えた。その手前で、父が静かに待っている。
「紬」
呼ばれて顔を上げると、父はいつもより少しだけ表情を崩し、穏やかに微笑んだ。
「……よく似合ってる」
それだけ告げて、黙って腕を差し出す。
一瞬だけ振り返ると、央は新郎として先に歩き出していた。父の腕にそっと手を添えた瞬間、パイプオルガンの前奏が流れ始め、扉が静かに閉まる音がした。
重厚な音色とともに、チャペルの扉が、再びゆっくりと開いた。
眩しいほどの光が差し込み、白を基調としたチャペルの全景が現れる。天井高く連なるアーチ、ガラス越しに降り注ぐ自然光、花々とクリスタルが織りなす輝き。そのすべてが、息を潜めるように、紬を迎え入れていた。
入場前に一礼し、父と歩調を合わせて母の前に歩み立つと、母は目元を潤ませ、震える指先でそっとベールに触れた。
「……綺麗だよ、つーちゃん」
懐かしい呼び名と、涙を含んだ声。
その瞬間一気に胸が熱くなり、泣いてしまいそうになるのを必死にこらえて唇を噛みしめた。
母は静かにベールを下ろすと、
『行ってらっしゃい』
そう送り出すように微笑んだ。いつもと変わらない穏やかな笑みを浮かべる母の姿が、柔らかなベール越しに滲んだ。