Dearest My Lady
epi.2


あれから季節がひとつ巡り、今日は紬の誕生日。四月下旬の風は、もう花の香りよりも新緑の匂いを運んでいた。

街路樹の若葉が街灯の光を透かし、夕暮れの空気にかすかな湿り気を混ぜている。通りを行き交う人々の装いも軽くなり、季節が確かに動いていることを感じさせた。

昼過ぎに仕事を終えた紬は、毎年恒例になっている央との食事の準備を進めていた。

鏡の前で髪を整え、淡いベージュのワンピースに袖を通す。派手ではないけれど、少し上質な素材。数日前に選んだばかりの、新しい服。

毎年、誕生日の食事に合わせて新しい洋服を買うのが、紬のひそかな楽しみになっていた。

最後に、ジュエリーボックスから小さなネックレスを取り出す。細いチェーンの先で淡く光るのは、桜の花びらのような色をしたモルガナイト。それは去年の誕生日に央から贈られたもので、控えめで優しい輝きが、紬はとても好きだった。

「……うん、これでいいかな」

胸の前で軽く手を合わせ、鏡に映る自分へ小さく笑いかける。気負いのない約束のはずなのに、心の奥でわずかに鼓動が速くなる。

やがて央からの通知が届き、小さなバッグを手にして家を出た。
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