Dearest My Lady
家の前に出ると、道路脇に一台の高級車が停まっていた。運転席から降りてきた央が、紬を見つけて軽く手を振る。
「お迎えにあがりました、紬ちゃん」
冗談めかした口調。けれど、上質なスーツに包まれた彼の姿はもう紬の知る少年ではなかった。
大学を卒業し、正式に月城グループの後継として働き始めて数週間。見慣れたはずの笑顔が、どこか大人びて見える。
「車なんて珍しいね」
「今日は特別だから」
(特別…?いつもの食事だよね?)
不思議に思っていると、央が助手席のドアを開ける。紬は少しだけためらいながらも、その笑顔に誘われて車内に乗り込んだ。
車内には、ほんのりと落ち着いた香水の匂い。夕暮れに染まる街を走り抜けるライトがフロントガラスを横切り、紬の頬に一瞬ずつ、柔らかな光を落としていった。
「仕事はどう?本格的に始まったんだよね」
助手席に体を向けながら、紬が問いかける。
「うん。もともと学生の頃から色々関わらせてもらってたけど、やっぱり自分の名前で動くとなると責任が違うね」
「そうだよね。あのなっちゃんが、もう立派な社会人だ」
「紬ちゃんにそう言われると、ちょっと照れるなぁ」
そんな短いやりとりのあと、少しだけ沈黙が落ちた。