Dearest My Lady
車内に流れていたのは、世界的な指揮者である央の母方の祖父が指揮したオーケストラの音楽。穏やかなクラシックの音が静寂を包み、窓の外の光がゆっくりと流れていく。
やがて車は、都心の一角に佇むレストランの前で止まった。
「着いたよ」
窓の外に広がっていたのは、いつもより明らかに上質な雰囲気のレストラン。外観からして静かな高級感が漂い、通りの喧騒とは切り離されたような佇まいだった。
「……ここ?」
「うん。大切な日だから、静かなほうがいいと思って」
央は軽く笑いながらドアを開け、助手席側に回ると紬のほうへ手を差し出した。その所作が自然すぎて、どこか大人びて見える。
店内に入った瞬間、季節の花々とキャンドルの灯りが視界を包み込んだ。照明は落とされ、静かなクラシックが流れている。テーブルは整然と並んでいるのに、なぜか他の客の気配がなかった。
「え……まさか、貸切?」
その言葉に、央はにこりと微笑むだけだった。その仕草に、紬は軽く首を傾げる。
「ちょっと、大げさじゃないかな」
「そうかな」
央の笑みはいつも通り穏やかで、けれどどこか、ほんの少しだけ違う光を宿していた。
ふたりで向かい合わせに席につくと、静かな店内に、ワインボトルを開ける軽やかな音が響いた。