Dearest My Lady
ふたりの間に短い沈黙が落ちる。
店内には弦楽の小さな調べだけが流れ、キャンドルの灯りがテーブルの上で揺れる。その柔らかな光が紬の頬を染め、胸の奥をそっとくすぐった。
やがてデザートプレートが運ばれてくる。苺のタルトの上に小さくキャンドルが立ち、「Happy Birthday Tsumugi」とチョコレートで描かれていた。その繊細な輝きに紬は目を瞬かせた。
「わあ、素敵……」
「喜んでもらえて良かった」
「うん……いつも本当にありがとう、なっちゃん」
その瞬間、ふと、温かく穏やかだった空気が少しだけ張りつめたように感じた。
デザートフォークに手を伸ばそうとする紬を引き留めるように、央はそっと手を差し伸べる。
「……紬ちゃん。俺、大人になったよ」
「え?」
「一流の大学だって卒業したし、家のことも、これからちゃんと責任を持ってやっていける」
紬はその言葉に一瞬戸惑い、少し間を置く。
「…う、うん。なっちゃんはすごいね」
いつものように褒めたつもりだった。けれど、央の表情は真剣そのもので、その瞳にはどこか張りつめた光が宿っている。
「だからこれで、ようやく紬ちゃんを迎えに行ける」
胸にざわめきが走る。央の言おうとしている意味をすぐには理解できず、固まった。