Dearest My Lady

「……お断りします。そんなことより、ゴマちゃんに大きな問題はありません。おそらく気温変化のストレスで食欲が落ちているだけでしょう。様子を見て、問題があればまたご来院ください」

声をさらに低くした瞬間、男は一瞬目を見開いたが、すぐに笑みを作り直す。

「わかりました。ではまた、機会を改めてお誘いしますね」

診察室を出て行く背中を見送り、小さく息を吐く。こうした小さな苛立ちと倦怠感が、常に自分を覆っている。誰かに好意を抱かれることは、紬にとっては嬉しいどころか重荷なのだ。

そのとき、助手の田中が控え室から顔を出した。

「先生~、またですか?ほんとモテますね」

紬は苦笑を浮かべ、肩を落とす。

「診察中に言われたって困るだけだよ。そんなことより、飼い主ならちゃんと家族の心配をしてほしい」

「そうは言いますけど、診察外でも断ってますよね? この間も、先生の帰宅を外で待ってた飼い主さんがいたとか」

「いや……待ち伏せなんて、普通に恐怖でしょ」

田中が「確かに」と笑い、紬は疲れたようにため息をつく。

「それはそれとしても、先生は彼氏作らないんですか?そうすれば言い寄る男も減りそうなのに」

「うーん……」

理屈はわかる。けれど、そんな気にはどうしてもなれなかった。
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