Dearest My Lady
過去に経験した異性からの数々の“好意”は、紬にとってはトラウマに近い。
中学の頃から、下校時の待ち伏せや連絡先を求められることが頻繁にあり、進学を重ねてそれは日常となった。初対面同然の相手から突然交際を迫られ、強い嫌悪感を覚えたこともある。
断っても引き下がらない視線や言葉は、やがて執拗なストーカー被害に発展し、紬は異性との距離に強い恐怖を抱くようになった。
社会人になってからも状況は変わらず、診察中に冗談まじりに身体を触られたり、好意を理由にした押しつけや干渉を受けた。その積み重ねが、紬が心を閉ざすには十分すぎる理由だった。
「そういうのはちょっと……私、男性って苦手で……」
「そうなんですか?じゃあ、あの子はどうなんです?うちにもよく来る、“なっちゃん”」
唐突に出てきた名前に、紬は無意識に動きを止めた。
「幼馴染なんですよね?仲も良さそうですし、彼も先生の頼みなら、恋人のフリでも引き受けてくれそうですけど」
田中の軽い口調に眉をひそめ、思わず口を開く。
「何言って……彼はただの幼馴染だし、それにまだ大学生よ?」
「大学生も立派な成人男性ですよ~!彼なら適任じゃないですか!超イケメンだし、ハイスペだし!なんたってあの月城財閥の──」
そのとき、受付から明るい声が飛んだ。
「次の患者さん、入りますねー!」