Dearest My Lady
シャンデリアの淡い光の中、店内の空気はあまりにも穏やかで、現実感が遠い。それでも、央の笑顔だけがはっきりと目に焼きついて離れなかった。
(……これで、よかったんだよね)
心のどこかでそう呟いた瞬間、央が少しだけ表情を和らげて、静かに言った。
「紬ちゃん、もう少しだけ……付き合ってもらってもいい?」
「え?」
「家に送る前に、寄りたいところがあるんだ」
そう言って立ち上がった央は、プロポーズの前とまるで何も変わらないそぶりで自然に手を差し出した。
店を出ると、夜風が頬を撫でる。春の終わりを告げるような柔らかな風だった。
車内は静かで、窓の外に流れる街灯の光が、まるで夢の続きを映すように揺れている。指に嵌めたばかりの指輪が、その光を受けてかすかにきらめいた。
「えっと……どこに行くの?」
「すぐ着くよ」
央の声はやわらかく、それでいてどこか決意を含んでいた。紬はそれ以上、何も聞けなかった。
沈黙が夜のドライブを包み、エンジンの低い音とタイヤの小さな摩擦音だけが響く。やがて、車がゆっくりと減速した。
紬が顔を上げると、そこに広がっていたのは白く灯りに照らされた壮麗な門構え。鉄製の門扉の向こうには、広い庭園と、上品に光を受ける建物の影が見えていた。