Dearest My Lady

「……え、ここって……」

「うん。ここで少し話したい人たちがいるんだ」

「ひ、人たちって……?」

問いかけた声がわずかに震える。けれど央は答えず、静かに車のドアを開けて紬に手を差し出した。

その手を取るしかなくて、紬は小さく息を呑む。

敷き詰められた石畳を歩きながら、周囲の光景を見渡す。手入れの行き届いた庭、夜でも淡く灯されたアプローチライト、玄関前に並ぶ高級車の列──どれを取っても、一般的な“家”とはかけ離れている。

そして、視線の先に見えた大きな門構えに、紬は息をのんだ。

月城家本邸。幼いころから何度も遊びに来た、央の実家。けれど今こうして並んで立つと、見慣れたはずの景色がまるで違って見えた。

玄関の扉が開いた瞬間、明るい光があふれ出た。その中に立っていたのは──

「やっと来たか」

本来、この家にいるはずのない紬の弟の(いおり)だった。

「え、いお?なんでここに……」

「そいつに呼び出されたんだよ。迷惑なことにな」

庵の視線の先には央が立っている。堂々とした態度の央を前に、庵の不躾な言葉はまるで通じないかのようだった。

「随分と可愛い性格になったじゃないか、庵。もうみんな揃ってるか?」

「全員応接にいる。俺は一服してから戻るからはよ行け」
< 23 / 122 >

この作品をシェア

pagetop