Dearest My Lady
「紬ちゃん」
呼ばれて振り返ると、央がゆっくりカーテンを開けながら、やわらかく目を細めていた。
「無理しなくていいからね」
唐突に告げられ、紬は瞬きをする。
「無理……?」
「うん。ここに早く慣れようとか、俺のために何かしようとか、気を張らなくていい。紬ちゃんが紬ちゃんのままでいてくれたら、それだけで十分だよ」
その声は穏やかで、どこか揺るぎない確信を含んでいた。
「君が隣にいてくれるだけで、俺は幸せだから」
静かな部屋に溶けていくその言葉を聞いた瞬間、胸の奥に張りつめていた小さな緊張が、するりとほどけていく。
央のまなざしには、見返りを求める色がどこにもない。ただ、紬という存在が“そこにいてくれること”そのものを、まっすぐに受け入れてくれている。
(……こんなふうに、大切にされたことなんて、なかった)
家族からの愛情は十分すぎるほど受けてきた。けれど、それ以外の他人からの好意はどこか一方的で、押しつけがましくて、息苦しかった。
いま目の前にある穏やかさだけは、そのどれとも違う。その事実に気づいた瞬間、胸の奥でまたひとつ、静かに温度が上がった。