Dearest My Lady
⿻*⌖.:˚


婚約が正式に決まると、月城グループから世間への発表が行われた。大々的な報道ではないものの、ニュースやSNSには、

《月城財閥の次期当主が電撃婚約!お相手は白衣の美女》
《麗しの王子が幼馴染と育んだ純愛》

といった、どこか面白半分の見出しが並びはじめる。

紬の名前こそ伏せられていたが、“獣医”“幼馴染”“一般女性”という断片的な情報だけでも、知っている人には十分だった。関係者の間では、やがてその“月城の婚約者”が紬であることが静かに行き渡っていく。

当然、そのニュースは紬が勤務する動物病院にも届いた。


朝の出勤時、スタッフルームの扉を開けた瞬間、どこか落ち着かない空気が漏れてくる。

「天城先生、おめでとうございます!」

最初に声を上げたのは田中だった。続いて他のスタッフたちも一斉に近寄ってきて、ぱっと花が咲いたように笑顔が広がった。

「ニュース見ましたよ~!だから言ったじゃないですかぁ」
「白衣の美女って、絶対天城先生のことだよねって話してたんですよ!」
「いつからお付き合いされてたんですか?教えてくれないなんて寂しい~!」

真っ直ぐな祝福に押され、紬は慌てて頭を下げた。

「え、えっと……ありがとうございます…」

嬉しいはずなのに、胸の奥では現実がまだ追い付いてこない。周囲の祝福も、報道の見出しも、肩書きだけが先に整っていて──当の自分だけが、その“変化”に届かずにいる。

(……私が一番、ついていけてない)
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