Dearest My Lady

「お忙しい時に、お手を煩わせてしまい申し訳ありません」

その気遣いに、院長が軽く首を振る。形式的な挨拶ではなく、ここで働くスタッフ全員への配慮がにじむ言葉だとわかり、紬の胸の奥がふっと温かくなった。

央は姿勢を直し、落ち着いた声で切り出した。

「このたび紬さんとの婚約が正式に整いました。今後、彼女が月城家の関係者として公の場に出る機会も増えるかと思います。その際にこちらの病院へ何らかの形で影響が及ぶ可能性もありますので、前もってご挨拶をさせていただきました」

院長はわずかに目を見張ったが、すぐに穏やかな表情へ戻る。

「ご丁寧にありがとうございます。天城先生は当院にとって大切なスタッフです。今後もどうぞよろしくお願いします」

「こちらこそ。急な訪問でご迷惑をおかけしました」

央はふたたび深く礼をした。立ち上がるその直前、ふと紬へ向けられた視線が触れる。ほんの一瞬なのに、頬が熱を帯び、呼吸がふっと浅くなった。

「……っ」

見慣れているはずの微笑みがどこか別人に見えてしまい、思わず目をそらしてしまう。

院長室を出ると、央は歩みを緩めて紬のそばに寄り、肩に視線を落としながらそっと身をかがめた。

「急に来て、仕事の邪魔しちゃってごめんね」
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