Dearest My Lady
かすかに肩へ触れた指先の温度がじわりと広がる。紬は慌てて首を横に振った。
「……ううん。そんなことないよ」
央はほっとしたように笑い、やわらかい声で告げた。
「じゃあ、俺は戻るよ。また夜に会おうね、紬ちゃん」
待合に控えていた秘書が近づき、央はスーツの背を軽やかに翻して歩き去る。自動ドアが静かに閉まる音がして、院内にいつもの時間が戻った──その直後。
「やっば…!スーツ姿だと全然雰囲気違うんだけど!」
「ももちゃんと来るときは爽やか美青年なのに、今日はもう、なんていうか……オーラがすごい!」
「天城先生と話してたときの顔見た?スパダリで一途とか、もう反則だよ~っ」
抑え切れない興奮が小声で弾け、紬は思わず頬に手を当てた。
(なんだか……なっちゃんに全部持っていかれちゃった)
耳の奥がまだ熱い。けれどその奥に、どうしようもなく嬉しい気持ちが灯っている。
紬の想いだけじゃなく、ここでの立場も、居場所も──気づけば央がさりげなく守ろうとしてくれている。その自然なふるまいが、またひとつ紬の心を静かに揺らしていた。