Dearest My Lady
央が屈み、嬉しそうに頭を撫でる。
隣で紬もそっと膝をつき、広い背中に指を滑らせた。厚みのあるふわふわの毛が指先に触れ、その温かさがじんわり広がったその瞬間、胸にちくりと痛みが走った。
(……あの子も、こうやって嬉しそうに迎えにきてくれたっけ……)
柔らかな毛並み。小さな足音。かすかに湿った鼻先──そして、そばを離れようとしなかったあの温度。あれからもう何年も経つのに、ふとした瞬間に、影のように記憶がよぎる。
そんな紬の小さな変化に気づき、央がそっと顔を覗き込んだ。
「紬ちゃん、どうかした?」
不意にかけられた優しい声に、紬はハッと顔を上げる。
「ううん、大丈夫……なんでもないよ」
夏が近づくと、どうしても“あの子”を思い出す。もういないはずの温度を、どこかの記憶が呼び覚ましてしまう。大切な存在を失ったあの日と同じ季節の匂いに触れるだけで、心が沈む瞬間がある。
央はそれ以上何も聞かず、ただ短く「そっか」とだけ返すと、立ち上がった。
「夕飯、頼んでくるね。紬ちゃんはももと座って待ってて」
「……うん。ありがとう」
ホテルの調理スタッフに軽く連絡を入れに向かう央の姿を目で追いながら、紬は促されるままリビングのソファへ腰をおろした。
すぐにももが大きな体をすり寄せてくる。紬は両腕で抱き込むようにして、首元に顔を埋めた。ももは満足そうに喉を鳴らし、その大きな頭を紬の肩へ静かに預ける。
(……あったかい)
その温もりが、少しだけ沈んだ心をそっと支えてくれるようだった。