Dearest My Lady

理由は説明されない。けれど“仕事の用事”なら、ももを連れていくことはまずない。

その小さな違和感に胸がわずかにざわついたが、深くは考えずに紬はリードを握る央の手元へ視線を落とした。

「そっか……うん、わかった」

ももの頭を軽く撫で、そのままバッグを肩に掛ける。

「じゃあ、行こうか」

紬は短く頷き、央と並んでエレベーターへ向かった。いつもより少しひんやりと感じる廊下の空気が、胸の奥の沈んだ気配を静かに深めていく。

ロビーを抜け、車に乗り込む。後部座席には、ももが落ち着いた様子で腰を下ろした。

央は行き先を告げず、「すぐ着くよ」とだけ言ってエンジンをかけた。


⿻*⌖.:˚


車は街を離れ、ゆるやかに郊外へ向かって進んでいく。

曇り空の下、景色はどこか色を失って見える。ビルの並ぶ街並みが途切れ、緑の多い道へ差しかかる頃には、紬はそっと膝の上で手を組んだ。

ももは後部座席で静かに座り、時おり小さく息をつく。その落ち着いた気配が、逆に胸の奥のざわつきを際立たせる。

(……どこへ向かってるんだろう)

央は運転に集中していて、特に会話もない。紬も何も聞けなかった。聞けば答えてくれたのかもしれないけれど、訊く勇気が湧かなかった。
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