Dearest My Lady

やがて、車は坂道を上っていく。両脇に低い木々が並ぶ静かな道で、ふと、頭に小さな予感が浮かびかけた。

けれどそれを形にする前に車がゆっくりと速度を落とし、敷地内の駐車スペースへと滑り込んだ。見上げた看板に、紬は息を呑む。

連れてこられたその場所は──紬もよく知る、小さなペット霊園だった。

視界が揺れたように感じて、思わずシートベルトを外す手が止まる。

「……なっちゃん……ここ……」

央はエンジンを切り、紬のほうを静かに見つめた。

「降りよう」

優しい声だった。けれどその優しさが胸に触れた瞬間、目の奥が熱くなる。

紬は深く息を吸い、そっとドアを開けた。曇った空気はひんやりしていて、肺に落ちるたび少し痛い。

墓石の並ぶ細い道には、淡い色の花が所々に供えられた。家族の写真やおもちゃが添えられたものもあり、誰かの愛情が静かにそこに息づいている。

央はももにリードをつけ、紬の歩幅に合わせて一歩一歩、ゆっくりと歩く。

そしてその道のいちばん奥で足が止まった。控えめな彫りの、ひっそりと佇む小さな墓標。

──“いちご”

その名前は、“あの子”の名前。かつて実家で飼っていた、トイプードルの女の子。

九歳の頃からずっと一緒で、どんな時もそばにいてくれた、大切な家族。老衰で亡くなったのは五年前──でも、胸の中の喪失は、決して年数とは比例して癒えるものじゃなかった。

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