Dearest My Lady

「……ももちゃん、ありがとう」

震える声でそう言うと、ももはさらに身を寄せて体温を預けてくる。

央はももの背をゆっくり撫で、紬の肩へもそっと手を添えた。強がらせるでもなく、ただ包み込むような仕草だった。

胸の奥に絡まっていた痛みが、すこしずつほどけていく。紬は心の中で呼びかけた。

(いちごちゃん、見えてる?……もう、私は大丈夫だからね)

風がやわらかく頬を過ぎていった。その感触が、あの日のいちごの体温と重なるようで──紬はそっと目を閉じた。


⿻*⌖.:˚


霊園を後にし、車に乗り込むと、ゆっくりと走り出した車内には静けさが満ちていた。

ワイパーの動かない曇り空の下、景色は薄く滲んだまま流れていく。さっきまで溢れていた涙のせいか、紬の心にもまだ湿り気が残っていた。

央はまっすぐに前を見てハンドルを握り、余計な言葉を挟まなかった。紬もまた、口を開けば感情がこぼれてしまいそうで、ただ窓の外に視線を向ける。

沈黙は重苦しくない。かといって軽いものでもなく──そっと置かれた、あたたかい布団のような静けさだった。

やがて、紬は小さく息を吸い、言葉を選びながらぽつりと口を開く。

「……なっちゃん」

央の手が、ハンドルを握ったまま微かに動いた。

「今日……連れてきてくれて、ありがとう」

央は目線を前に向けたまま、ゆるく目尻を下げて笑った。

「ううん。一緒に来たかったのは俺の方だから」

その言葉に、胸が締めつけられる。紬はぎゅっと指を絡め、言葉を続けた。

「……いちごちゃんのこと、覚えててくれて嬉しかった」

口にしたその一言には、柔らかな痛みが残っていた。
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