Dearest My Lady
央はほんの少しだけ顔を紬の方に傾ける。視線は相変わらず前を向いているのに、その仕草には気遣いが隠れもせず滲む。
「忘れるわけないよ」
淡々としながら、そこには揺るぎない確信があった。
「紬ちゃんが大事にしてたものは、全部ちゃんと覚えてる」
喉の奥がぎゅっと詰まる。手を膝の上で握りしめたまま、どう返せばいいか言葉が出ない。
「……なっちゃんは、どうして……」
(どうしてそんなに優しくしてくれるの?)
(私を好きなのに、どうして何も求めてこないの?)
聞きたいことは山ほどあるのに、どうしたらいいのか分からなかった。
「──紬ちゃんは、俺の原点だから」
その声音に、紬はそっと顔を上げた。
「原点……?」
央は微かに笑みを浮かべ、迷いのないまま続ける。
「子どもの頃、紬ちゃんは俺にとって憧れのお姉さんだったんだ。綺麗で優しくて……当たり前みたいに、特別な存在だった」
その言葉は曇り空の下で流れる景色のように、ゆっくりと紬の胸に染み込んでいく。
「だから俺はずっと、紬ちゃんに追いつきたくて、かっこいいって思ってほしかったんだ。……紬ちゃんが男嫌いだって知ってからは、なおさら俺が守ってあげたいって思った」