Dearest My Lady
央の声は強引さも押しつけもなく、ただ紬への想いだけが真っ直ぐに宿っていた。
「紬ちゃんが悲しむようなことはあってほしくない。俺は、紬ちゃんの笑顔だけ見ていたいから」
「……っ」
心の中に、小さな芽がふくらむような感覚が広がった。
(私……ずっと、なっちゃんに守ってもらってたんだ)
央の笑顔や仕草を思い浮かべるたびに、何かがそっと揺れる。誤魔化しのきかない感情が、静かに芽吹いていく。
少しずつ、恋に似た何かが忍び寄り、気づけば胸の内に温かく息づいているのを感じた。
「……なっちゃん」
思わず漏れた声に、央は微かに視線を向け「なあに」と囁く。その優しい眼差しが、紬の中に小さな灯りを灯す。
安心だったはずの距離が、少しだけ、怖いほど近く感じる。
「本当に、ありがとう」
──そのとき、厚く垂れ込めていた雲の切れ間から、やわらかな光が差し込んだ。まるで二人の間に、ほんのひと筋の晴れ間が生まれたかのように。
見えないふりをしていた気持ちが、ようやく形を成していく。どこにも行かないように、そっと根を下ろしていくみたいに。
車内に満ちる静かな温もりの中で、紬はその確かな芽生えを受け止めていた。