Dearest My Lady
その考えが胸をそっとくすぐる。
そこへ、扉がノックされた。返事をすると、タキシード姿の央が現れる。
彼の足が止まり、紬も思わず息をのんだ。
「なっちゃん……」
呼んだ声が、ほんのわずか震えた。央は紬をひと目見るだけで、表情をやわらかくほどけさせる。
「紬ちゃん……すごくきれいだよ」
真っ直ぐで、ためらいがない言葉が心に届く。言われ慣れたはずの「綺麗」が、彼からだとまるで違っていて、嬉しさが込み上げて、呼吸が乱れる。
「……っ」
心臓が跳ねて、喉がきゅっと詰まった。いつもならすぐに返せる「ありがとう」が、どうしても声にならない。
央はゆるりと距離を縮め、低く甘く囁く。
「最後は、俺にさせてもらっていい?」
気づけば央の手には細いチェーンのネックレスが収められ、スタイリストが自然と下がっていく。
金属が首すじに触れた瞬間、ひやりとした感触に熱が重なり、背筋が震える。カチリ、とかすかな音をたててチェーンが閉じられた。
「……うん。完璧」
前へ回り込んだ央の視線が、まっすぐ紬に注がれる。琥珀色のきれいな瞳が自分だけを映しているようで、体温が一気に上がった。
「……ありがとう」
笑顔を返すと央はそっと手を取り、優しい力加減でエスコートへ導く。
「行こっか」
彼に導かれて歩き出す。
ドレスの裾が揺れるたび、胸が静かに波打つ。扉の向こうには華やかな世界。けれど、今はその不安さえ、彼の手が温かく包み込んでくれるようだった。