Dearest My Lady
来賓者との会話がひと区切りついたところで、スタッフが央を呼びに来た。
「月城様、そろそろご挨拶のお時間です」
央は紬へ視線を向け、手を離す前に指先でそっと包むように触れた。
「すぐ戻るね。一人で大丈夫?誰かついておいてもらおうか?」
「大丈夫だよ。いってらっしゃい」
心配そうに一度だけ紬を見つめ、それから央は壇上へ向かっていった。
──途端に、彼の存在が遠ざかる。
さっきまで温かかったはずの手のひらが、ひどく心もとなく思えた。紬は深呼吸をして、会場奥のドリンクカウンターへ向かう。グラスの中で弾ける炭酸の音が、やけに大きく耳に響いた。
「……あれが、例の婚約者?」
小さな囁き声が、その泡の弾ける音を縫うように忍び込んできた。
「一応は獣医をしてるらしいけど、所詮は庶民上がりよね」
「しかも六つも年上らしいじゃない。年下御曹司の玉の輿狙いなんて、なんだか必死だわ~」
「どうやって誘惑したのかしら?まあ確かに、顔だけは整っているものねぇ」
「若さにつけ込むのが上手なのよ。下品なやり口」
刺すような悪意が次々と飛んできて、触れられたわけでもないのに、背中を強く押されてよろけそうになる。
──違う。そんなつもりじゃない。
これまでも、容姿だけを値踏みする目や根拠のない噂に晒されることはあった。でも、これは桁が違う。