Dearest My Lady
じっとりと絡みついて離れないむきだしの嫉妬と敵意に、足元から冷たいものが這い上がってくる。
「あんな庶民を迎えるなんて……月城の格も知れたものね」
央の名前までも貶められ、喉の奥がぎゅっと締め付けられた。逃げ場なんてどこにもないみたいに、息が苦しい。
(私はただ……好きになっただけなのに)
純粋な恋心は、他人の評価ひとつで「計算高い女」へと書き換えられてしまう。そんな恐怖が喉元まで迫ってくる。
グラスを持つ手が震え、炭酸が縁から少し跳ねてドレスに小さな水滴を落とした。
そのとき。
壇上に上がった央が、堂々とマイクを握る。
『本日は月城グループ主催のチャリティーパーティーにお集まりいただき、誠にありがとうございます』
凛とした声に、会場の視線が一斉に央へ向かう。彼は無数の眼差しを集めたまま、堂々と立っていた。
『私達は“未来の笑顔を守る”ことを理念に掲げています。今日ここにいらっしゃる皆さまの想いが、その未来を支える力となると信じています』
心地の良いよく響く声が会場に広がり、さっきまで耳に刺さっていた囁きは波にさらわれるように遠ざかっていった。
知らず知らずのうちに、指先がその輪郭を探していた。
(なっちゃん……私は本当に、あなたのそばにいてもいいの…?)
ふと、壇上の央の視線がこちらへ流れ、そのまままっすぐ紬とぶつかった。一拍、わざと間を置いたような静かな呼吸を経て、央はふっと柔らかく笑う。
そして会場を見渡しながら続けた。
『大切なのは、生まれ育った環境でも肩書きでもありません。どんな人が、どんな気持ちで誰の手を取るのか──それが未来を変えると、私は学んできました』