Dearest My Lady
その言葉が落ちるたび、紬の肩越しでひそひそと動いていた囁きは、潮が引くように静まっていく。
けれど紬の胸の中にはまだ、さっき突き刺さった悪意の棘が小さく疼いていた。震えは止まらず、呼吸も浅いまま。そんな紬の様子を察したかのように、央はマイクを握り直し、少し声のトーンを変えた。
『この場を借りて……日頃お世話になっている皆さまに、ひとつご挨拶があります』
一瞬、会場の空気が固まる。次の言葉を待つ沈黙。
央はためらいなく歩を進め、紬のそばに立つと、堂々とその手を取った。
「こちらは、私の婚約者の天城紬さんです」
視線が一斉に二人へ集中する。会場のざわめきが押し寄せても、央は揺らがない。
「彼女は誰よりも誠実で、誰かのために努力できる人です。僕が尊敬し、心から惹かれたのは……そのまっすぐな優しさでした」
会場に静けさが落ち、央はその空気をまっすぐ見据える。
「……ただここ最近、彼女や、私たちの関係について事実とは違う憶測が広がっていると耳にしています」
その一言に、さきほど紬を指してひそひそと笑っていた令嬢たちの肩がぴくりと跳ねる。視線が合いそうになった瞬間、彼女たちは慌てて逃げていった。
沈黙の動揺がじわりと広がる。