Dearest My Lady
「人は知らないまま誰かを決めつけてしまうことがあります。けれど僕は、紬さんをよく知る立場として言わせてください」
央は迷いなく紬の手を包み込む。
「彼女は不当な評価を受けるような人ではありません。僕が隣にいてほしいと願ったのは、紬さんという人そのものに惹かれたからです」
力強い言葉に、紬の胸の奥が熱くなる。
守ろうとしてくれる。ちゃんと見てくれている。それがひどく嬉しくて、じんわりと心にあたたかさが広がっていく。
──本当に、嬉しいはずなのに。
その気持ちのすぐ隣で、別の感情が膨らんでいく。つい先ほど投げつけられた嘲笑と、嫉妬と、悪意。
“庶民”“年上”“玉の輿”
その言葉たちが、央の堂々たる宣言の温度とは裏腹に、紬の胸の奥に静かな罪悪感を落としていった。
央の言葉は確かに嬉しいのに。その嬉しさをまっすぐ受け取れない自分が、どうしようもなく情けない。
純粋に想ってくれる央に対して、自分だけが周りの声に揺らいでしまう。その弱さが、痛いほど申し訳なかった。
──だからこそ、言えない。
言いたいのに、声にならない。
自覚したばかりの紬の小さな恋心に対して、央の想いはあまりに深く大きくて、ただ受け止めるしかできない。
その手は、本当にあたたかいのに。触れれば触れるほど、言えない気持ちばかりが増えていく。
彼を想う“好き”が大切すぎて──それを壊さないように、紬はそっと息を潜めるしかできなかった。